振り返れば、わが国は01年のe-Japan戦略で5年以内に世界最先端のIT国家になると宣言していた。しかし、それを支える専門人材の育成をおろそかにし、現在に至っている。技術立国を掲げながら、IT業界は米国の巨大IT企業に牛耳られ、政府のガバメントクラウドでさえも外資系に依存するありさまだ。

 経済産業研究所の「博士課程卒業者の労働市場成果」によれば、労働市場における処遇の低さが要因ではない。さらに、低賃金就労者の割合も大学・修士卒と比べると少ないという。では何が理由なのか。

 文部科学省の報告では、学生の声として「博士課程に進学すると生活の経済的見通しが立たない」「博士課程に進学すると修了後の就職が心配」との回答が3割を上回っていた。リクルートワークス研究所の機関誌「Works」(14年10月10日発行)によれば、博士は「専門にこだわり、視野が狭い」という理由で民間企業が採用を敬遠するという。

 経団連では今年2月に博士人材に関する提言を発表し、博士人材の育成・活躍に向けた取り組みを行うという。しかし、その内容は理系偏重で、人文社会科学分野の人材がおろそかにされている。技術革新が社会に与える影響や倫理面の問題などがますます重要になる中、まずは経済界が裾野を広げて博士号取得者の人材の重要性を認識すべきだ。

(行政システム顧問 蓼科情報主任研究員 榎並利博)