頭を抱える女性写真はイメージです Photo:PIXTA

いつも明るく元気で笑顔を絶やさない“人気者”が、あなたの周りにもいないだろうか。実は、そんな彼らは笑顔の裏で、過去の辛い経験や自己犠牲を抱えている場合もあるのだ。「いつでも明るく快活でいなければいけない」ということが半ば強迫観念にように感じられる世の中で、自分の心の声を聞く大切さを精神分析医が伝える。※本稿は、キム・ヘナム『「大人」を解放する30歳からの心理学』(CCCメディアハウス)の一部を抜粋・編集したものです。

明るく元気な人の裏に
隠された憂うつと苦労

 いつ見ても明るく元気な人たちがいる。底なしのエネルギーを持つ彼らは基本的にパワフルで、他人のために一肌脱いでは自分のことのように尽力し、それでいて笑顔を絶やさない。どんな時でもタフでポジティブな空気を醸し出し、人々の模範となっている彼らには、周囲からも賛辞や驚嘆の声が尽きない。何よりも彼らがふさぎこむ姿は1度も見たことがない。そのせいか、気分がふさいでいる時は、彼らの明るさがまぶしくて、自分がますます情けなく思えてくる。

 彼らにも憂うつな時はあるのだろうか?あるとしたら、どうやって乗り越えているのだろう?そこまで考えたところで、私たちは首を横にふる。

「あの人たちには、そもそもヘコむ理由がないもん。そんなところ、想像できないよ」

 ソユンさんは突発的なうつ症状を訴え、病院を訪ねてきた。大した内容ではないのだが、2週間前に友達から少し嫌なことを言われて以来、夜も眠れず無気力になって、何も手につかなくなっている。何もかもが無意味に思えて心がどこまでも沈みこみ、事あるごとに涙がこぼれた。いまだかつて、こんな気分になったことがない彼女は激しく動揺した。

 彼女はこれまで本当に一生懸命生きてきた。どんな状況下でも笑顔を忘れず、愚痴1つこぼさずに、人が嫌がる仕事も黙って引き受けた。だから周囲の人たちは、彼女を何の苦労もなく穏やかに育った「お嬢さん」だと思っていた。

 ところが彼女の口から聞いた彼女の半生は、かなり意外なものだった。

 彼女は11歳で母を亡くした。身勝手な父は子どもたちを顧みず、家にさえ寄りつかなかった。そのため幼い妹と弟の世話は彼女に託された。子どもでありながら母親役まで課せられた彼女は、学ぶことを諦めて弟たちの世話と家事を一手に担っていた。その間に父は新しい母を2人も連れてきた。