人の細胞に注目する
「ライフサイエンス」とは?

 老化のメカニズムの科学的な解明は、遺伝子レベルで飛躍的に進んでいます。老化するのは細胞であり、活性を失った細胞を再び活性化させる「細胞再活性化」によって、若さと健康を保つことができるということが分かってきました。それを実現するのが、人の細胞に注目したライフサイエンス分野の研究です。

 ライフサイエンスでは、老化は病気と捉えて研究が進められています。これまでは、細胞の老化を遅らせることはできても、劣化した細胞は元に戻せないといわれていました。それはつまり老化は、不可逆だということです。

 古くから、歴史上の権力者たちはあらゆる方法で不老不死を求めてきましたが、誰ひとりそれを成し得ることはできませんでした。しかし、ライフサイエンスの進化は、細胞を若返らせるアプローチを徐々に現実にしてきています。

 そもそも、なぜ細胞は老化するのでしょうか。老化の原因については、突然変異が蓄積されることが老化につながるという「突然変異説」、体内で発生した活性酸素が原因とする「活性酸素説」、染色体の末端にあるテロメアが短くなることで老化するという「テロメア短縮説」などさまざまな学説が唱えられています。

 11年には、DNAのメチル化レベルから求めた生物学的年齢である、「エピジェネティック年齢(Epigenetic clock)」が初めて提唱されました。そして13年、アメリカでスティーブ・ホルバートが機械化学習を用いてDNAメチル化データから予測した年齢を「エイジングクロック(Aging Clock)」として、その決定に関わる353個のCpG領域(※)を発表しました。

 さらに現在までに100以上の「エピジェネティック年齢」が発表されており、これにより老化の機序にDNAのメチル化が重要な役割を担っていることが分かってきています。

※CpG領域:CpGとはDNAの5´側からシトシン(C)とグアニン(G)の順で並んだ2つの塩基配列のことで、DNAメチル化はこの領域のうちシトシンの5位炭素原子にメチル基(-CH3)が付加される反応。