つまり、全国82の大学の精神科の主任教授のほぼすべてが薬物療法を専門とする医者であるということは、今の日本の精神医療は薬物療法が中心になっていることを示しています。

 もちろん、薬を処方するだけで、メンタルを病んでいる患者さんがどんどん良くなっている状況なら、まったく問題ありません。

 しかし、今の日本で増えているメンタルの不調の中には、薬だけでは治らないものや、薬の効かないものが多くあります。薬が効きやすいメンタルの不調であっても、生涯にわたって薬でコントロールし続けているケースが大半です。

 そのため、全国のメンタルクリニックは“治らない患者”があふれています。そこに新たな患者さんがどんどん加わって予約の取れない状況が生まれ、「5分診療やむなし」となり、治らない患者さんがますます増える──そんな悪循環に陥っているのです。

薬で治らない人は「治せない」医療現場の実情

 薬一辺倒の日本では、薬で治る人だけが救われています。

 薬が効きやすい心の病としては、「統合失調症」があります。統合失調症は、薬でうまくコントロールできている間は、派手な症状を出すことも少なくなります。知能が落ちる病気ではないので、仕事に復帰できる人もいます。

「双極性障害(いわゆる躁うつ病)」は薬が効きますし、「単極性障害(うつ秒)」も7割ぐらいの人は薬でコントロールできます。また、「強迫性障害」や「パニック障害」もわりと薬が効きますが、やはり通常は一定のカウンセリング治療が必要です。

 一方、薬で治らない症状に対して、今の日本の精神医療は完全にお手上げです。ストレチェックで引っかかる各種の「不安障害」や「適応障害」「依存症」「トラウマ」「PTSD」「強迫性障害」「身体症状症」あるいは子どもの「発達障害」などには十分に対応できていません。

 それでも、薬物療法しかできない医者はほかの対応ができないため、薬をだらだらと処方し続けます。薬では治らないと気づいていても、ほかの対応ができないために、薬を出し続けるしかありません。

 薬で良くなる病気でも、前述したように投薬をやめると再発するケースが多いことから、結局ずっと薬を処方し続けます。薬で表面的な症状が良くなったとしても、本質的なところは薬だけで良くならない場合がほとんどだからです。

 不眠で悩んでいる人に睡眠導入剤を使うと、少なくとも睡眠に関しては「眠れる」ようになります。しかし、不眠の引き金となっている根本的な問題、たとえば、職場での人間関係だったり、過重な仕事量だったりが解決しないと、いつまでも薬を飲み続けなければ眠れないし、薬の量も最初は1錠で眠れたのに、だんだん2錠、3錠と増えていく。