そうした人には、ちゃんとしたカウンセリングなり、認知療法なりの精神療法を行わなければいけないのに、今の日本には、精神療法に関してまともな教育を受けている医者は絶対的に少ないのが現状です。

 精神科医は増えているのに、標準化された精神療法の教育システムがないため、薬で治らない精神疾患に対応できる医者が大幅に不足しているのです。

アメリカの医者は「治してなんぼ」

 一方、アメリカではベトナム戦争後の70年代、80年代に、トラウマやPTSD(心的外傷後ストレス障害)の患者さんが急増しました。この頃から、アメリカの精神療法家たちが、「やはり、心の病を薬だけで治すことは難しい」と声を上げ始め、精神療法が見直されるようになったのです。そのため、今のアメリカの精神医療の体制は、日本のような薬物中心ではありません。薬より精神療法のほうが「治せる治療」だからです。

 アメリカの医者は「治してなんぼ」というところがあります。考えてみれば当たり前の話なのですが、プロセスより結果を大事にする。公的医療保険制度がないために診療代が高額なので、日本のように治せない患者さんにだらだらと薬を出し続けることができないという事情もあります。

 アメリカの精神医療では標準治療が1回45分と長いこともあり、カウンセリングのできない医者のところには患者さんは集まりません。

 一方、日本の精神医療は、前述したように大学医学部精神科の主任教授のほぼすべてが薬物療法を専門とする医者であるため、アメリカのように変われずに今日に至っています。

 文科省が大学医学部に完全にノータッチなので、今の大学の体制を変えることは難しいと思います。ですので、厚労省が主導して、現状の医大とは別の、医師国家試験の受験資格のある大学校をいくつも作ることが望まれるのです。