私の知人に「日本一の不妊の名医」と言われる人がいます。彼を訪ねて全国から若い女性が不妊治療に訪れるのですが、その9割は「若い頃にダイエットをしていた人」だと言います。

 十分な栄養を摂らなかったため、子宮が育っていないのです。本来、成長期は健康に生きるための体をつくる時期です。満足な食事をしなければ、健康で丈夫な体にならないのは言うまでもありません。

 私は精神科医ですが「摂食障害」は深刻です。心の病気というだけでなく、実際に死の危険と隣り合わせだからです。いわゆる“拒食症”の人だけを見ても、1年間で100人ほどが亡くなっています。

 死因は、栄養失調によって引き起こされる貧血や脳萎縮、肝機能障害、自殺など様々です。中には治療を開始した人がいきなり高カロリーな食事をして、体が対応できず多臓器不全を起こすケースもあります。

 いずれにしても、怖い病気なのです。“痩せ願望”から始まり、太ることへの恐怖へと転じていきます。正しい知識を得る前に「痩せていることがいい」と信じ込み、間違った行動を起こした結果、悲しい事態が起きているわけです。

 それを防ぐためにも、私はこうして「無理に痩せる必要はない」と声を大にして訴えているのですが、なかなか伝わらないのが現状です。

 ただ、誤解してほしくないのですが、私は「際限なく食べよ」とか「とことん太っていい」と言っているわけではありません。

 私が勧めているのは、あくまでも「ちょい太め」であり、「大太り」や「超肥満」ではありません。

 BMI25~30くらいの「ちょい太め」であれば、内臓脂肪の影響もそう大きくはないと考えています。

 ちなみに、医学界では近年、「免疫細胞は内臓脂肪から作られる」「内臓脂肪のある人はがんになりにくい」という説が評価され始めています。

“ちょい太めが健康にいい”――。これが新しい医学の常識になることを、私は願っています。