老いがすすむ物質
「フリーラジカル」

 認知機能に負の影響を与える第一因子は加齢です。年齢とともに人は遺伝子の転写精度が落ちて、遺伝子発現が不正確となり、有害なたんぱくが増加します。遺伝子レベルでの分子障害が起こるというメカニズムです。

 もっともよく知られているのは、加齢により体内で酸化反応が起こり、フリーラジカルという攻撃物質ができてくると、脂質、たんぱく、DNAを障害します。これらは結果的に慢性炎症症候群を引き起こすので、老いが進むと言われています。フリーラジカルが増える原因としては、大気汚染、アルコール、電磁波、タバコ、ストレスなどの有害因子が言われています。

 老いは、これらの有害因子に一生にわたってどれほど毒されてきたのかの現れであり、その程度は個人の状態、生きてきた環境により異なるので、高齢者ほど認知機能を含めた身体機能の個人差が大きくなります。これは生活環境と習慣を注意深く改善すれば、加齢の影響を相当軽減できることを意味します。

 人が年齢とともに認知機能が落ちるのは神経細胞が減るからではありません。神経細胞が加齢だけでは減らないことは定説となっていて、20歳と90歳を比較すると、神経細胞の数そのものの差は10パーセント以内だったという研究があります。

 とくに脳の加齢により減少が目立ったのは、神経の脇に出ている神経線維です。若い人のニューロンはよく葉の茂った樹木のようで、老化が高度に進んだニューロンは晩秋の幹しかない落葉樹のような状態です。

 老けないためには生活上、環境上の有害因子を避けながら、シナプスが育つ生活を送ることがよいのです。たとえば、ファイトケミカルと言われる物質が知られていて、細胞の修復、免疫力アップ、活性酸素の排除に役立つと言われています。

 さらに活性酸素を減らす生活習慣として、身体を冷やさない、運動、よく咀嚼することも言われています。

 認知機能については、若くから衰えやすいところと意外に衰えないところがあります。最近の調査では、年齢による衰えがもっとも早く表れる検査はDigit Symbol Codingという図形に1、2、3と番号をつけ、数字を見せただけで図形をできるだけ早く答えさせる脳機能の検査だと言われています。

 脳機能を測る検査は多数あります。そのなかでもこの検査はワーキングメモリーと処理スピードの要素が混ざったもので、関連性を瞬時に思い出す作業です。いちばん成績がよいのは小学校低学年くらいの子どもです。早くも20歳台後半からこの検査で測れる脳機能は落ちていくことがわかっています。