熱中症による脱水と異常な体温上昇は、そうした薬の作用が悪いほうへ効きすぎてしまったり、それぞれにある副作用を生じやすくさせてしまったりするのです。

 たとえば、普段から降圧薬で血圧を管理している人が発熱したときに服用すると、過剰投与した状態と同じように薬が効きすぎてしまい、急激に血圧が低下してショック状態になるケースがあります。血圧が一気に下がると、脈拍が減ってそのまま意識を失ったり、心臓が止まったりする場合もあります。熱中症で体温が異常に上昇している状況でも、降圧薬の服用で同じことが起こる危険があるのです。

 また、糖尿病で血糖を下げる薬を使っている人では、熱中症の脱水や体温上昇によって薬が効きすぎると低血糖を起こします。血糖が30mg/dL以下になると、痙攣や昏睡状態に陥り、治療が遅れれば命にかかわります。ほかにも低血糖によって、狭心症、心筋梗塞、不整脈といった心臓疾患を発症し、悪化するケースも報告されています。

 逆に、脱水や体温の異常上昇によって薬の効きが悪くなるほうへ作用すると、急激な高血糖を来す「ケトアシドーシス」につながる危険もあります。脱水による喉の渇き、血圧低下、頻脈、吐き気、倦怠感などが生じ、悪化すると呼吸困難や意識障害などが起こり、そのまま腎不全を招くケースもある深刻な病態です。

 こうしたリスクを考えても、糖尿病あるいは糖尿病をベースとした心臓疾患があって薬を使っている人は、とりわけ熱中症に注意が必要といえます。

 熱中症で怖いのは、脱水と体温上昇によって起こる循環不全と急性腎臓障害です。体温が異常に上昇していることに気づかずに尿が出ない状態が長く続けば、その時点で腎不全が始まっているということです。

 心臓疾患などのトラブルがあったり、生活習慣病や慢性疾患の薬を日頃から服用したりしている人は、熱中症になったときにそうなるリスクが高く、循環不全を起こして血圧が急激に低下した時点で腎臓が機能しなくなるケースもあります。

 そうした高リスクの人が命を守るためには、まずは熱中症にならないことが何よりも大切です。次は、熱中症の予防策について詳しくお話しします。

熱中症を避けて命を守るには
1日3回の「体温測定」がおすすめ

 前項では、心臓トラブルがある人は熱中症になると重症化しやすいとお話ししました。ここ数年、9月になっても急に気温が上がると熱中症を招くケースが少なくありません。引き続き注意が必要です。

 このような熱中症の高リスクの人はもちろん、健康な人でも、まずは熱中症にならないことが大切です。そのための対策として、とても効果的なのが「体温測定」です。