山口 若い世代で優秀な人ほど、センター試験の足切りのような感覚でお金のことを考えている気がします。お金はある時点までは必要だけれど、これ以上の人生の価値は買えない、と完全に切り離して考えているんです。そして、人とのつながりや信頼関係、共感といったお金で買えないもののほうを非常に大事にしています。

 確かに産業資本主義の時代に数字は非常に使いやすかったし、お金は脳で考える最強のメディアかもしれませんが、衣食住を維持するための最低限の出費を除けば、もはやその必要性は薄れてきています。お金に代わってどんな新しいメディアが僕たちの交換を支えるのか?僕自身、その解はまだ見つかっていないというか、すでにあるのか、それともまだ存在しないのかもよくわからないんですが、いかがお考えですか。

岩井 解がないということが、まさしく本質なのですね。お金が最強なのは、最も単純で抽象的だからです。電子マネーが象徴するように、ただの数字ですから。しかもまさにその匿名性によってどのような人間とも繋がる「自由」を与えてくれますから、絶対に消滅しません。

 その一方で、人間の究極的な目標はけっしてお金で買えません。事実、古今東西のあらゆる文学は、お金で幸せは買えない、と訴え続けてきました。ただ、その真理を知るためには、最低限のお金で衣食住を満たさなければならない。新興国の場合はその最低限のお金にも窮してきましたから、まずはお金を稼ぐことに目が向いている。そして、一定の成熟水準に到達してはじめて「お金で幸せは買えない」という真理を知る。逆説的ですが、お金では幸せを買えないことを知るためにはまさにある程度のお金が必要なのです。日本人もかつての高度成長期に、しがらみだらけの共同体社会だった田舎から逃れ、豊かさを求めて上京してきたものの、都会の孤独の中でお金で幸せは買えないという文学を書き始めたりする……。

山口 面白いことに今はその時代とは対照的で、僕たち世代を中心に東京から地方へとどんどん散っているんですよね。そして、地方でまた新しい共同体を作ろうとしている。面倒な物々交換をやりながら、あえてしがらみを作っているんです。逆の動きが加速しているというのは、非常に興味深いですね。

 先生、今日は非常に有意義なお話を伺わせて頂いて、本当にありがとうございました。


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