私が思うに、手紙やプレゼントを贈ることが、相手に対してプラス1回の接触になるからではないでしょうか。

 日本は人口が世界で11番目に多い国です。そして会社の歴史も長く、大企業や老舗であれば何十年、何百年前からのさまざまなつながり、お付き合いがあります。和菓子で有名な虎屋などは現在の社長で18代目、約500年も続いていますし、政治家の方も2代目、3代目であれば代々地場の方々との関係性があります。つまり、付き合うべき人がたくさんいる社会だと言えます。

 他方、非常に熱心に働く人が多く、みんな忙しくしています。すなわち、付き合うべき人は多いのに使える時間は限られているのです。

 ですから本来であれば直接会って挨拶をしたり、近況を語り合ったりして関係性を深めたいところですが、お互いになかなか難しい。だからこそ表立っての、直接の感情表現の代わりに、手紙とプレゼントによって想いや意思を伝える文化が発展したのではないでしょうか。昔からの付き合い、長く持続的な関係の中で互いに贈り合う文化が発達し、今も残っているのだろうと感じます。

早稲田の学生時代の寮生活と
キッコーマン勤めで作法を習う

 たとえば私はジョージア大使として、面識のある方が内閣改造で大臣、副大臣に就任されたら「おめでとうございます」、退任された方々には「お世話になりました」とジョージアワインを贈っています。するとだいたい直筆で一筆添えたお手紙が返ってきます。贈答した方々はその後ご自宅でジョージアワインを飲み、家族とジョージアの話をしてくださり、次にお会いしたときはそのときの印象を語ってくれます。つまり贈り物をすることで、話のネタもできるのです。

 このようにして人間関係が醸成されていくと考えると、贈答文化は非常に良いものだと思います。

 私は接待と贈答の作法を、上下関係にきっちりしていた和敬塾(編集部注/著者が早稲田大学時代に住んでいた学生寮)とキッコーマン(編集部注/大学卒業後の就職先)でたたき込まれました。

 和敬塾で覚えて役に立ったのは、宴席の際の上座・下座に始まり、おごられたときには会計の邪魔にならないように店の外で相手を待って、出てきたところでお礼をすること、タクシーに複数人で乗るときの順番や座る場所などです。キッコーマンでは「半返し」――3万円のものをいただいたら1万5000円のものをお返しする――などですね。