日本は接待や贈り物の礼儀に対してもルールがきっちり決まっています。それを一度覚えてしまえば、ケースバイケースで「こういうときはどうしよう」と悩むことはなく、ある意味で便利です。マナーが接待を円滑にし、人間同士の距離感、コミュニケーションの充実に役立っていると思います。

 日々、外交官としてたくさんの政治家と接していますが、日本で仕事をする上ではこうしたマナーを押さえているとやりやすいです。

「不正の温床」にもなる接待
駐日大使はこう理解する

 コミュニケーションをするには相手とビジネスレベルで話すための知識ももちろん重要ですが、それだけでは足りません。相手と共通する価値観や振る舞いのプロトコルを身につけていなければ、意思疎通がうまくできません。それには「日本語を学んだ」だけでは足りず、人と人との実践的な付き合いを通じて初めて身につくものが多いのです。

 もちろん、「そういう付き合いは面倒だ」「ややこしい作法に従うのはごめんだ」と思っている人もおられるでしょう。それはそれで、個人の考えを否定するつもりはありません。また、私も「あいつは礼儀がなってない」などと、うまくできていない人をけなしたり、排除したりする方向にマナーが使われることはあまり歓迎したくはありません。

ジョージア大使が日本で衝撃だった出来事「1日に2回も3回も…」「カルチャーショック受けた」『日本再発見』(ティムラズ・レジャバ、講談社)

 このような「商習慣」や「ビジネスマナー」がどこまで今の時代に沿っているか、たしかに疑問ですし、細部まで知らなくとも損はしないと思います。しかし言っておきたいのは、私の経験上、そのような決まりを知っていてそれを活用できると、日本の社会ではまだまだ得することが多いということです。

 私の場合、一個人としての感覚で仕事をしているわけではなく、日本で人脈を作ること自体が外交官の目的のひとつでありメインの業務ですから、ミッションを遂行していく上では日本のビジネスマナー、贈答品や接待文化の理解は欠かせないものなのです。

 そうした立場から意見を言わせていただくなら、接待・贈答品文化は「時代に合っていない」「不正の温床になっている」などと批判されることもありますが、一度中に入ってやり方を覚えてしまえば、そこまで複雑怪奇なものではなく、便利な面もあり、かつ想いを伝え合える良い面もあるものだと、改めて日本のみなさんにお伝えしたいと思います。