家賃が会社から全額補助されることを念頭に言われた言葉だ。

「今こうやって(海外に)住めてるのは、私のおかげじゃん」

 何人かの駐夫は、同行して自分のキャリアが中断することによって、男としての自尊心を傷つけられ、妻との立場が逆転するのではないかという懸念を抱いていた。先に触れた稼得能力の喪失と異なり、そもそも妻の海外赴任、異動に同行するという行為自体が、言わば「妻の付属物」に成り下がることを意味するというわけだ。男の沽券、男子のプライドといった類の話だ。

 ある駐夫が現地で再会した大学時代の友人たちは、一流企業の駐在員としてバリバリ働いていたり、ロースクールや大学院に留学しており、妻を帯同させていた。片や、自分は現地の日系企業に就職し働いているとはいえ、企業規模や現地採用社員という身分を考えると、劣等意識を感じざるを得ない。

 加えて、妻に付いてきた身で妻に扶養されているという立場に成り下がった現実を、華々しくキャリアを積み上げている友人たちとの会合で改めて突き付けられることとなった。彼らから「何やってるの?」みたいな視線や雰囲気を感じ取り、いたたまれない気持ちにすらなったとも明かしてくれた。

年収が妻に抜かれたことで
主従関係は逆転するのか

 大学時代から交際していた後輩とそのまま結婚した内田さんは、結婚後も先輩、後輩といういつまでも変わらない関係性を意識していた。ところが、年収で妻に抜かれ、妻が社会的な脚光を浴びることによって、先輩後輩の上下関係が徐々に揺らぎ初め、いずれ崩れていくのではないかという強迫観念に駆られ、ただただ焦燥感を強めていた。自分のほうが学年も収入も上回っていたために抱いていた妻との「主従関係」がひっくり返ることを恐れていたのだ。

 県議選に落選し、政治家になる夢をきっぱり諦めた渡辺さん。妻が市議から県議に転身した2期目の最中、いきなり衆院選に当選した。