「年収2倍超の妻にフクザツな夫」と「大黒柱になりたくない妻」なぜ甲斐性問題はこんなに面倒なのか?写真はイメージです Photo:PIXTA

収入が妻に抜かれた夫や、専業主夫にいそしむ夫――「生きづらさ」にもがきながらも、夫婦の立場逆転という苦悩と葛藤を乗り越えた男たちは少なくない。だが、一方で、メインの稼ぎ手となった妻は、自分が大黒柱であることをどう思っているのだろうか?本稿は、小西一禎『妻に稼がれる夫のジレンマ――共働き夫婦の性別役割意識をめぐって』(筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。

夫婦の立場逆転という苦悩と
葛藤を乗り越えた男たち

 稼得能力の喪失に呆然とし、夫婦間の収入・社会的格差に人知れず悩み、妻との関係性の変化に苦悩しながらも、妻のキャリアを大切にすることを忘れず、夫婦一体となってキャリアを築き、子どもを育てる――。こうした点では、国内外を問わず一致している。「男がこうであるべきだ」という旧来の価値観は、日本を飛び出しても、容易に崩れることがなく、男性たちを苦しめる。性別役割意識、ジェンダー役割規範を巡る高い壁と対峙し、悶え苦しんだ末に葛藤を乗り越えた男性たちが歩み始めた新たな生き方は、生きづらさに直面している、多くの男性の目に、どのように映るだろうか。

 バブル真っ盛り、私が高校2年生の時だったろうか。栄養ドリンクのテレビCMが大きな反響を呼んだ。日本人ビジネスマンに扮した俳優が「24時間戦えますか。ビジネスマン、ビジネスマン、ジャパニーズビジネスマン」と歌いながら、ドリンクを手に飛行機で世界を飛び回る姿を描いた、コミカルな内容だ。この「24時間戦えますか」は、当時の新語・流行語大賞の候補にもランクインした。

 放映時、ジャパンマネーが世界を席巻していた。米ニューヨークの象徴の1つ、ロックフェラーセンターや米カリフォルニアのユニバーサル・スタジオ・ハリウッドなどが次々と日本企業に買収されていた。経済力に自信を強めた日本では、米国のビジネス慣行を批判し、石原慎太郎氏とソニー会長だった盛田昭夫氏が日本の存在感強化を謳った共著『「NO」と言える日本』が出版されたりしていた。

「24時間戦えますか」は世相を反映し
「3、4時間戦えますか」に変わった

 私自身、大学受験を控え、将来的な進路の方向性を明確に打ち出さなければいけない時期に登場したCMだったため、今も強烈に覚えている。今の時代なら、完全にブラック認定され、アウトなフレーズだが、当時は普通に受け入れられていた。