海外の過去の好例から何を学べるか
人々の就業意欲と生産性を高める方法

 海外では、景気の停滞を克服するため、財政や金融政策で目先の景気を支えつつ、中長期の視点で労働市場などの改革を進めた国があった。80年代、サッチャー政権下の英国は、首相のリーダーシップの下で労働市場改革を比較的スピーディーに実行した。

 当時のサッチャー首相は、労働組合中心の雇用の慣行を規制し賃金決定を柔軟化した。失業保険の給付に関しても、所得比例から定額方式に修正した。国有企業の民営化も進め経済全体で市場原理は発揮されやすくなった。

 また、70年代にオランダ経済は第1次オイルショックなどの影響で停滞した。その後80年代、オランダ政府は労使の協力を前提に、規制緩和や失業給付の引き下げなどを段階的に実現した。景気停滞を克服し、持続的な経済成長の基盤を整備した。

 90年代、ドイツは旧東ドイツ統合の負担などで景気停滞に陥った。一時は、「欧州の病人」などとやゆされた。停滞を脱する起爆剤になったのは、2002年から始まったシュレーダー改革だ。ドイツ政府は、経済全体で市場原理を高め、成長が期待できる分野にヒト、モノ、カネの再配分を促進した。そのために、企業の解雇規制を緩和した一方、職業訓練や紹介制度を拡充した。その際、政府系と民間の職業紹介サービス企業の競争も促進した。

 同時にドイツは、失業保険の給付期間を短くした。人々の就業意欲は上昇し、自動車や精密機械など主力産業で雇用のマッチングが進んだ。それは、リーマンショック後の欧州財政危機から、ユーロ圏経済の回復をも支えたと考えられる。

 いずれも、失業者の増加など一時的な痛みを伴う改革だったが、労働市場全体の流動性を高め、失業保険など社会保障も見直したことが重要だ。職業訓練・紹介制度も整え、人々の就業意識を高めたことで、全体で生産性は高まった。さらに、失業給付の削減は財政健全化にも有効だった。人的資本の強化こそ経済・社会の効率性向上に欠かせない。