日本人の「働きがい」が
125カ国中で最低レベルのワケ

 なぜ、わたしたちは働くか。それは、人生を豊かにするためだろう。趣味のために働く、好きなことを仕事にして自己実現を目指す。所得を得るには人生のかなりの時間を仕事に費やす。やりがい、情熱を感じられれば、働きがいは高まるはずだ。その結果、新しいことへの挑戦が増え、新しい商品やサービス(需要)が創出されて経済が成長する期待も高まる。

 ところが、過去30年間、わが国の「働きがい」(ワーク・エンゲージメント)は、主要先進国の中で最低水準にある。ワーク・エンゲージメントとは、オランダのユトレヒト大学のウィルマー・シャウフェリ教授が提唱したものだ。「活力」(仕事中にあふれる活力)、「熱意」(仕事を愛している、誇りを感じる)、「没頭」(仕事に夢中になる)の3つで構成される。

 また、米国の調査企業によると、22年まで4年連続で、日本の働きがいの水準はデータのある125カ国中で最低レベルだった。主要因は、バブル崩壊後の景気停滞だろう。1990年1月、わが国では株式バブルが崩壊し、景気は減速し、企業の投資活動なども低下した。そして97年、金融システム不安が発生して大手銀行が次々と経営破綻した。この時すでに雇用慣行は事実上、限界を迎えつつあった。

 しかし、わが国の政治は雇用の維持を優先し、労働市場の改革を進めて成長期待の高い分野に経営資源を再配分することを行わなかった。この時、日本全体で近視眼的な損失回避の心理が高まったとも言い換えられる。

 一方、世界経済はグローバル化した。90年代に米国ではIT革命が起き、先端企業は高付加価値のソフトウエア分野に選択と集中を行った。また、中国は「世界の工場」としての地位を確立し、これにより世界中で工業製品の価格競争が激化した。さらに、台湾と韓国は、半導体やデジタル家電の受託製造体制の整備にまい進した。

 翻ってわが国産業界の競争力は低下した。既存分野に人材が固着し、賃金は伸び悩んだ。その結果、わが国のワーク・エンゲージメントは世界最低水準に甘んじることになる。

 他方、株主が経営者に改革を求めることを、エンゲージメントと呼ぶこともある(シェアホルダー・エンゲージメント)。わが国企業の経営者は、株主からのエンゲージメント要請にも十分に対応することができなかった。