働き方改革と年金改革は両輪
確定拠出型年金の拡充は道半ば

 雇用慣行は、人々の生き方を形成する。サッチャー改革以前の英国は、「ゆりかごから墓場まで」と呼ばれた手厚い社会保障制度があった。これにより、生産性は停滞し、財政も悪化した。労働組合は構成員の雇用維持を優先したことで、新規参入者である若年層の雇用機会を結果的に奪っていた。それが、サッチャー改革によって経済と社会の推進力が高まった。

 日本も今、労働慣行やそれに付随する社会の仕組みを改革することが求められている。わが国の企業年金は、あらかじめ給付額の算定方法が決まっている「確定給付企業年金」と、拠出額は決まっており将来の受取額が個人の資金運用の結果で変化する「確定拠出年金」の二つに分かれる。2023年度末時点の加入者数は前者の方が多い(企業年金連合会の報告)。政府は、「個人型確定拠出年金」(iDeCo)など確定拠出型年金の制度を拡充したが、道半ばだ。

 確定給付の年金加入者の場合、定年前に転職すると受取額が減少することもある。そのため、確実な受取額をあえて手放したくないと考える人もいるだろう。景気低迷に加え、企業年金の制度面から個人が不利になる部分があることも、労働市場の流動性向上を妨げ、働きがいの低下につながったと考えられる。企業の収益力が低下し、リスクを避けたいという心理に加え、企業年金制度の改革の遅れも、雇用慣行の改革を妨げた可能性は否定できない。

 近年では、年功に基づいた評価制度をやめ、年齢、性別に関係なく能力、収益貢献などの実績で人事評価を行う企業が増えている。6月、わが国の実質賃金は27カ月ぶりのプラスだった。賃上げの持続性は、働きがいを感じ、成長を目指す人の増加、それを通した企業の収益の増加と長期存続に不可欠だ。

 諸外国とは条件の違いはあるものの、それでもなお日本は、海外の労働・社会保障制度改革を参考に、学び直しや職業紹介サービスを拡充すべきだ。加えて、政府は、成長を目指し勤め先を変える人が不利にならない環境整備を急ぐべきである。