職場には「仕事を楽しみながら結果を出している人」と、「頑張っているのに結果を出せない人」がいる。この違いは何だろう?
本連載では、ビジネスパーソンから経営者まで数多くの相談を受けている“悩み「解消」のスペシャリスト”、北の達人コーポレーション社長・木下勝寿氏が、悩まない人になるコツを紹介する。
いま「現実のビジネス現場において“根拠なきポジティブ”はただの現実逃避、“鋼のメンタル”とはただの鈍感人間。ビジネス現場での悩み解消法は『思考アルゴリズム』だ」と言い切る木下氏の最新刊『「悩まない人」の考え方 ── 1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』が話題となっている。本稿では、「出来事、仕事、他者の悩みの9割を消し去るスーパー思考フォーマット」という本書から一部を抜粋・編集してお届けする。

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「仕事がつまらない部署に配属されてしまった……」
「面白みのない単調な業務ばかりなのでやる気が出ない……」
といった悩みをよく耳にする。

 もはや仕事を楽しむ気が一切なければ、こんな悩みは抱かないはずだ。
「つまらない」「面白くない」という悩みがあるのは、心のどこかに「面白い仕事をやってみたい」「仕事を通じて楽しさを味わいたい」という気持ちがあるのだろう。

「悩まない人」は、こうした悩みからも自由だ。
 そこには、どんな思考アルゴリズムの違いがあるのだろうか?

「つまらない仕事」と「成果の出ない広告枠」の共通点

「面白さ」とはいったい何だろう?

 ふつうの人は「面白さ」とは、対象そのものにある性質と考えている。
 つまり、面白い仕事、面白い遊び、面白い本、面白い映画などが「面白い」のは、その内部にもともと「面白さ」があるからと捉えている。
 逆に、面白くないものの中には「面白さ」がないことになる。

 この考え方だと、面白い仕事に出合えるかどうかは「運次第」となる。
 たまたま引き当てた仕事の中に「面白さ」があれば「面白い仕事」だが、なければ「つまらない仕事」になる。

 仕事がつまらないのは運が悪いせいなので、自分にできることは何もない。
 ただ仕事をしながらモヤモヤを抱え、悩み続けることになる。

 一方、仕事の面白さに「悩まない人」は、「面白さ」の捉え方がまったく違う

 対象そのものに内在する性質ではなく、あくまでも人に依存した性質だと考えているのだ。

 ある仕事を「面白いもの」として見る人がいて初めてその仕事は面白くなる。仕事を面白がれない人から見ると、仕事はたちまち「つまらないもの」に変わる。

 結局、「面白い仕事」と「面白くない仕事」があるのではなく、「どんな仕事も面白くできる人」と「仕事を面白くできない人」がいるにすぎないのだ。

 この世界観からすると、仕事がつまらないのは運のせいではない。
 ましてやその仕事を任せた上司のせいでもない。
 原因は「仕事を面白くするスキル不足」である。

「対象そのものの性質」と思われているが、実際には「人次第」というものは、これ以外にもたくさんある。

 私がいるネット広告業界はその典型である。
 ときどき「いい広告媒体を教えてください」と相談してくる人がいるが、ネット黎明期からウェブ広告を使ったビジネスをやってきた私からすれば、「いい広告媒体」と「悪い広告媒体」というものは存在しない。

 広告媒体をうまく使いこなせる人と、うまく使いこなせない人がいるだけだ。

 ユーザーが少なく、反応の悪い広告媒体は廃れてなくなっていく。よって現存している広告媒体は一定以上の成果があるはずである。

 広告効果を最大化するスキルがある人にとっては、どんな媒体も「いい媒体」だし、そのスキルがなければどれだけ人気の広告枠も「悪い媒体」となる。

「うちの商品は魅力がないから売れない」と言っているセールスパーソンも同じだ。
 魅力のある商品と、魅力のない商品があるのではない。
 その商品がある一定以上売れているのであれば、その商品の魅力を引き出せる人と、引き出せない人がいるだけである。

「悩まない人」の特徴は、物事の属性を「対象そのもの」に押しつけるのではなく、「自分の受け取り方」として捉えることにあるのだ。

仕事が面白くなるために必要なもの

 世の中で「面白い」とされているものの多くは、それを面白がる「スキル」が低くても、十分に楽しめるようにつくられている。
 スマホのゲームやYouTube動画などはその典型で、何の予備知識や技術がない人であっても、それなりに楽しめるようになっている。
 だから、「これは面白い」と話題になりやすい。

 一方、仕事の面白さはというと、最初から万人向けにデザインされているわけではない。
 始めてすぐに「面白い」と感じられる部分ばかりではなく、ある程度のスキルを積み重ねていかないと、面白さを味わえない領域がたくさんある。

 だからこそ、「面白がるスキル差」が表面化しやすい。
 ある人はイキイキ働いているのに、同じ職場で働く別の人は、ものすごくつまらなそうにしている。

 これもスキル差である。
「仕事を面白くするスキル」が足りていない限り、どれだけ異動や転職を繰り返したところで、仕事はつまらなくなる。

 必要なのは「仕事の転換」ではなく、「思考アルゴリズムの転換」である。
 そのための第一歩は、「つまらない」の原因が「仕事のせい」ではなく「スキル不足のせい」だと気づくことだ。

 仕事のレベルが低いままだと、どうしても見えない価値観がある。
 だから、仕事のレベルが低いうちは、基本的に仕事は面白くない。

 逆に、スキルが上がっていけば、いろいろな「面白さ」にアクセスできるようになる。

「いまの仕事がつまらない」という人は、もっと面白い仕事を探すより、いまの仕事の面白さに気づけるよう、スキルアップすることに力を入れたほうが手っ取り早かったりする。

レジ打ちが「いちばん面白い仕事」になった瞬間

「悩まない人」の世界観では「面白くない仕事」は存在しない。
 もし、世の中のだれ一人としてその仕事を面白いと思っていないなら、たしかに「この仕事は面白くない」と言ってもいいだろう。

「面白さ」とは人間の解釈にすぎない。
「面白い」と解釈する人がゼロなら、そう結論づけるしかない。

 しかし、現実にはそんなことはないだろう。
 同じ職場を見渡したとき、あるいは、同じ業界内を探し回れば、少なくとも何人かは仕事に面白みを感じているはずだ。

 ここから先は「できる/できない」の議論と同じ。
 世の中にもし一人でもその仕事を「面白い」と感じている人がいるなら、「なぜなのか?」を徹底的に確認していけばいい。

 その人の面白がるスキルを学び、それと同じやり方をすれば、仕事が面白くなる可能性は十分にある。

 小さい頃から何をしても続かず、就職してからもすぐに嫌になって会社を辞めてしまっていたある女性のエピソードを紹介しよう。

 次々と退職→転職を重ねていくうちに、とうとう彼女を正社員で雇ってくれる会社はなくなってしまった。
 派遣会社に登録したものの、そこでも同じことの繰り返し。ありとあらゆる職場で働いた末にたどり着いたのが、スーパーでのレジ打ちの仕事だった。

 しかし案の定、彼女はすぐにこの仕事に飽きてしまう。
 いつもならすぐに辞めてしまうところだったが、さすがにこのままではいけないと思った。

 そんななか、過去の日記を発見し、かつて自分が「ピアニストになる夢」を持っていたことを思い出す。
 そこで彼女は、自分なりにレジ打ちの仕事を極めてみることを決意する。
 ボタンの位置を暗記し、ピアノを弾くようにリズミカルにレジ打ちをするアイデアだった。

 レジ打ちのスピードが上がると、徐々にまわりを見渡す余裕が生まれ、彼女の目にはこれまで気づかなかったいろいろなことが飛び込んでくるようになった。
 常連のお客さんの顔、来店客の時間帯、いつも買う商品などだ。

 そのうち、お客さんとちょっとした会話をしたり、お買得商品の情報をシェアしたりするようになっていくと、彼女の中に初めて「仕事が面白い」という感覚が芽生えていく。

 そしてある日、やけにレジに並ぶお客さんが続いて、「今日は忙しいな」と思い周囲を見回すと、ほかのレジはガラガラなのに彼女のところだけ行列ができていた。
 お客さんたちが彼女と話をしたくて、そのレジだけに集中していたのである(【参考書籍】木下晴弘著『涙の数だけ大きくなれる!』フォレスト出版)。

 こうして、あらゆる仕事をしてきた彼女にとって「いちばん面白かった仕事」はレジ打ちになった。

 単調な仕事と思われがちなレジ打ちであっても、仕事を面白くするスキルさえあれば、面白い仕事に変えることができる。

 どんな仕事をやるかは大きな問題ではない。
 結局、自分の考え方次第なのだ。

仕事をゲーム化できる人、できない人

 仕事が面白く感じられるためには、「面白い仕事との出合い」より、「仕事を面白くするスキル」が必要である。これはどんな人にも共通していえる。

 一方、「仕事のどんな側面に面白さを見出すか?」については、かなりの個人差がある。

 だから、自分がどんなことを面白く感じるのかは知っておいたほうがいい。
 数字、お金、人の反応、関係性、他者からの評価、知名度、社会的影響力、報酬の大きさなど、人によって千差万別だろう。

 先ほどのレジ打ちの女性は、ピアノに夢中になっていた自分の過去をヒントにそれを発見し、さらにお客さんとのコミュニケーションという別の軸にもつなげていった。仕事を面白くするのがうまい人は、「自分が喜びを感じる軸」と「現実の仕事」とをすり合わせるスキルが高いともいえる。

 私の基準はシンプル。
「成果が出るかどうか」が仕事の面白さに直結している。

 あまり「プロセスを楽しむ」という嗜好はなく、成果が出ればどんな仕事でも面白く感じるし、成果が出ない仕事は耐えがたいほどつまらない。

 仕事をある種のゲームのように捉えているのだ。なので、成果が見えにくい仕事は、さまざまな測定値を設定し、成果を見えやすくする工夫をして、必ず「成果が出たかどうか」を判断できるようにしている。

 仕事をゲーム化できる人には「共通点」がある。

 それは、一定の目標やゴールを掲げたとき、真っ先に「うまくいったときのことをイメージできる人」である。

「あなたの目標はこれです」と言われたとき、それを達成して大喜びしている未来のことしか考えていない。

 これはポジティブ思考とは少し違う。
 テレビゲームをするときをイメージしてほしい。
 ゲームを始めたとき、「ゴールにたどり着けなかったらどうしよう……」といった不安感や責任感はないはずだ。
 無事にクリアして「やった!」と喜んでいる未来しか見えていない。
 この感覚のまま仕事に臨める人は「成果軸」だけで仕事を楽しむことができる。

 しかし、必ずしもそんな人ばかりではない。
 目標を提示された瞬間、すぐに「なんとしても達成しなければ」「達成できなかったらどうしよう……」とプレッシャーに感じてしまう人もいる。そういう人は無理して成果軸だけを追い求める必要はない。

「給料が増えて生活が豊かになること」
「仲間と一緒に何かを成し遂げること」
「会社の社会的ステータスが高まること」
「お客様に『ありがとう』と言われること」
「仕事を通じて自分が成長していくこと」

 仕事を通じた満足にはさまざまな軸がある。
 仕事に面白さを見出せないとき、ひょっとすると、間違った軸で面白さを探究しているのかもしれない。 

 本当は人とのコミュニケーションが好きで、仲間に貢献したいと思っているのに、なぜか自分の評価に直結する仕事ばかりをやってしまっているようなケースである。

 そんなときは、自分がどんなことに価値を感じるのか、改めて見直してみるといいだろう。

(本稿は『「悩まない人」の考え方──1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』の一部を抜粋・編集したものです)