生物の細胞は絶えず新しく生まれ変わります。その中で老いが生じるのですが、そのために年輪のように同じ物質が体の中に残らないのです。

 近年、遺伝子の研究が進歩し、個人の生物学的年齢を推定する方法が発展しています。DNAの末端に、テロメアという細胞分裂を繰り返す際に短くなっていく部位があります。これは年とともに短くなります。また、DNAがたんぱく質をつくる機能を制御する仕組みであるメチル化が加齢と関係することもわかってきました。しかしこれらから測定できるのは、生物としてどれくらい年齢が進んでいるのかという生物学的な年齢です。したがって、個人の生物学的特性やこれまでの生活環境にも大きく影響を受けるので大まかな年齢はわかったとしても、正確な年齢の推定には使えないのです。これだけ科学が進んだ現代でも、年齢を知る手がかりが書類しかないというのは面白いと思いませんか?

長寿と遺伝の関係は?

 では、人間はいったい何歳まで生きることができるのでしょうか?

 これまでの世界最長寿者はジャンヌ=ルイーズ・カルマンさんで、122歳と164日です。フランスの女性で1875年に生まれ、1997年に亡くなっています。一方、男性の世界最長寿者は116歳と54日の木村次郎右衛門さんで、1897年に生まれ2013年に亡くなりました。このふたりについては研究者による調査データが残っていますが、認知機能の衰えはなかったという結果が出ています。

 カルマンさん、木村さんの例を見ると、人間の寿命はいったいどこまで延びるのかという疑問が生じます。記録上で検証された世界初の110歳到達者は、オランダのヘアート・アドリアーンス・ブームハルトさんという男性で、1788年に生まれ1899年に亡くなっています。記録の正確性ということもあり、20世紀になって本格的に長寿の記録が取られるようになったと思われます。

 最長死亡年齢(その年に死んだ人の中で最長寿者の年齢)の変遷からすると、最長死亡年齢は上昇し続けています。医学の進歩や社会環境の変化により、特に先進国では長寿化が確実に進んでいます。

 しかし寿命の長さには限界があるのではないか、という説もあります。寿命がどこまで延びるのかという問題について、私は、そもそも人間は遺伝的にそんなに長生きができないようにできていると考えています。つまり、生物としての遺伝的な多様性を保つために、自分は死んで次の世代につなげるようになっていると私は思うのです。