最近、長寿の研究でハダカデバネズミが注目されています。老化に対して耐性があり、代謝を低下させることで酸化のダメージを防いでいるなど、齧歯目にもかかわらず30年も生きることができるために生物学者がその長寿の要因を探っています。もしかしたらその研究から長寿をもたらす要因が見つかるかもしれませんが、一方で興味深いことに、ハダカデバネズミの個体間の遺伝子の多様性は極端に小さいといわれています。

 そもそも遺伝子の多様性とは、個体の特徴を生み、さまざまな環境下で種の絶滅を防ぐために生物に備わった特徴といわれています。ハダカデバネズミは変化の少ない、砂漠の限られた地域で生活しているため、似たものばかりになって現在の状態に至ったそうです。

 地上で生活している人間ではそのようなことは起こりそうにありません。今後iPS細胞が実用化され、古くなった臓器を置き換えることができるようになると150歳くらいまで生きる人は出るかもしれませんが、そこまで、脳が個人の人格を維持したままの状態を保ち続けることができるのでしょうか。あまりにも長生きすると、人は、「何かわからない自分」になってしまうかもしれません。

できることが減っても不幸にならない

 加齢により、多くのことを人は手放します。では、多くの人はそのまま不幸になるのでしょうか。

 私は高齢者の人を調査する際、PGCモラールスケールという質問票を用いています。その人がどのような精神状態であるかを、「心理的動揺」(感情の揺らぎ)、「老いに対する態度」(老いの受け入れ)、「孤独感・不満足感」(気分の状態)などから考察し、幸福感を評価しようとする質問票です。

 たとえば「あなたには心配なことがたくさんありますか」は「心理的動揺」に、「あなたは若いときと同じように幸福だと思いますか」という質問は「老いに対する態度」に、「生きていても仕方がないと思うことがありますか」は「孤独感・不満足感」を評価します。

 質問は全部で17項目あり、個人的には、100歳の人にこんなことを聞いてもいいのだろうかと思うような質問(たとえば寝たきりの人に「生きていても仕方がないと思うことがありますか」と聞くなど)も中にはあります。いずれにせよこのPGCモラールスケールは現在でも多くの高齢者調査で使われています。

 さて、この質問から計算できる得点を異なる年齢間で比較すると、驚くべき結果が出ました。