条件を限定しないよう、予算は最後に聞く

 初対面のお客さまとの面談では、軽く雑談をして打ち解けてから受付用の「ヒアリングシート」を記入してもらいます。といっても、お客さまに記入してもらうのは、名前や住所、勤務先や生年月日、携帯電話番号などの基本情報くらい。書ける範囲で構いません。

 物件の絞り込みに必要な、希望する沿線、間取り、広さなどの情報は、私が話を聞きながら記入します。そうすることで、お客さまの手を煩わせませんし、条件だけではわからないお客さまの本当のニーズも深掘りできるからです。

 普通の不動産会社では、最初に「家賃6万円台でJR中央線の1ルーム」というような希望を出して、それに合わせて物件を探します。しかし、私が家賃の予算を聞くのは、本当に最後の最後です。

 大事なのは、「どんな家に住みたいのか」なので、家賃に縛られずに希望する家のイメージを徹底的にヒアリングすることが重要だからです。2階以上がいい、1LDKがいい、日当たりを重視したい……。

 家賃を聞いてしまうと、どうしてもそこから条件を考えてしまいます。お客さまも、「この相場の家賃なら、こんな条件だろう」と無意識に制限をつけていたりします。それでは、自分が望む家の条件を初めから諦めてしまうようなものです。

 それはもちろん、私も同じです。私はこれまで2万5000件ほどの物件を見てきて、「日本一物件を見ている不動産屋」と言われることが多いですし、沢山見ている自負もあります。予算を知ってしまうと自然とフィルターが入って、こんな感じの物件だというのが頭に浮かんでくるのです。

書影『正直営業のすすめ』『正直営業のすすめ』(クロスメディア・パブリッシング)
鈴木 誠 著

 そんなフィルターがかかった状態で、物件を探すのは避けたい。それよりもお客さまが望む家をどうやって見つけるかということに全精力を注ぎたい。ですから、最初にお客さまのすべての希望を聞いて、最後に家賃の予算を聞く。その順番がとても重要なのです。

 これは他のビジネスにおいても、同じことが言えると思います。最初に予算ありきで考えると、いろいろな可能性を捨ててしまうことになるからです。予算や条件に縛られずに、まずはやりたいことを全部洗い出してみる。そこから実現していくために予算や条件をどう擦り合わせるか。この順番がお客さまを満足させる成果へと繋がっていくのです。