銀行の体力低下との
指摘は正しいのか
では、銀行の体力低下についての、石破氏の指摘は正しいのか。
銀行は短期で調達して長期で貸し出すものだから、短期金利以上に長期金利が上がれば利ザヤが増えて利益が上がる。だから低金利政策を止めれば銀行の利潤が上がるというのだろう。逆に言えば、低金利で銀行が儲からなくなっているという訳だ。
しかし、銀行の経営はそう単純ではない。金利を上げて景気が悪くなれば、借りる企業が減って貸し出しが減少する。不況になれば倒産も増えて、貸し倒れコストも増える。金利を上げれば銀行の利益が増えるという単純なものではない。
7月31日、金融政策決定会合後の記者会見で、植田和男日銀総裁が追加利上げを示唆した時、株価が大幅に低下したことを思い出すべきである。全体の株価は、TOPIXで見て7月31日から現在8月23日でマイナス5%程度のところまで戻しているが、この間、TOPIX銀行株はマイナス10%にしか戻っていない。つまり、金利を上げたら、銀行株が大きく下がったのである。
そもそも、銀行が儲からなくなることに何か問題があるのだろうか。私は、若者の雇用環境が良くなることの方がずっと大事だと思うのだが。
異次元緩和で雇用、特に若者の雇用が改善し、財政状況も好転したというのは事実である。石破氏が指摘する、日銀財務の悪化、財政規律の麻痺、銀行の体力低下とそれらの副作用とは、可能性の話、私に言わせれば思い込みにすぎない。
石破氏のご尊父は、鳥取県知事、参議院議員、自治相を務めた自民党の政治家だが、学生時代は、社会主義、共産主義の理想に共感したこともあったらしい。しかし、政治家になった後、地元青年団の海外研修の際には、必ずソ連を見てこいと言い、「共産主義という理念は素晴らしいが、人間がやるとただ権力主義に陥るだけだ」と言っていたとのことである(石破前掲書261-262ページ)。
石破茂氏には、副作用の思い込みよりも、異次元緩和で現実に起きたことを見ていただきたい。