日銀財務が悪化しても
インフレにはならない

 まず、石破氏が副作用と指摘した日銀財務の悪化についてだが、現在のところ事実ではない。ETFの買い入れによって空前の黒字を計上している。日銀は、2023年度末で時価74兆円、簿価37兆円(含み益37兆円)のETFを保有している。

 確かに、将来は金利引き上げのために債務超過になる可能性があるが、債務超過で何が起きるのだろうか。

 現在、アメリカの中央銀行であるFRBも債務超過である。何も起きておらず、FRBは、インフレのコントロールに成功したから、今後金利を下げると言っている。

 つまり、中央銀行の財務状況が悪化したからインフレになる訳ではない。日銀が赤字を計上したり、債務超過になったりすると大変だと言っていたエコノミストも、最近は何も言っていない。FRBが債務超過でも何も起きないのだから、まったく根拠のない主張とばれてしまったからだろう。

財政規律を守るのは
国会議員である石破氏の仕事

 次に、財政規律の麻痺についてだが、なぜこれが金融緩和のせいになるのだろうか。金利が安ければ借りやすくなるから政府が無駄遣いしやすくなるのは事実かもしれないが、であれば、増税して財政が楽になっても無駄遣いをするだろう。

 これは実際に東日本大震災で起きたことだ。復興特別所得税で増税をしたが、それで政府は賢く使うようになったのだろうか。結果は、驚くべき無駄遣いである(原田泰『震災復興 欺瞞の構図』第2章、第3章、新潮新書、2012年。中里透「将来世代にツケは回せるか――防衛費の「倍増」について考える」Synodos, 2022.12.05)。

 そもそも、財政規律を守るのは政府と国会の役割である。国民民主党の前原誠司氏は22年11月18日の衆議院財務金融委員会で「黒田総裁の…10年間で200兆円以上も国債が増えている。…つまりは、この国の政府の財政節度を失わせてしまっている」と主張した。要するに、日銀が国債を購入するから、政府の財政規律が低下すると言っている。

 これに対して黒田東彦総裁(当時)は「財政政策というのはあくまでも政府、国会がお決めになる権限と責任を持っておられることですので、それについて申し上げることはありませんが、あくまでもこれは金融政策として行っていることで、財政ファイナンスとして行っているわけではないということはお断りしておきたいと思います」と答えている。

 回りくどい答えだが、本当は、財政規律は国会議員であるあなたの仕事でしょ、お門違いの質問はやめて欲しい、と答えたかったのではないかと、私は勝手に思っている。つまり、財政規律を守るのは、国会議員である石破氏の仕事ということだ。

 それどころか、異次元緩和で名目GDPが増加し、税収が増え、財政赤字は縮小している。異次元緩和以前の2012年度の一般政府の財政赤字はGDPの8.2%だったが、2019年度には3.0%と大幅な改善となった。

 その後、コロナショックで上昇してしまったが、2023年度には5.6%となっている(IMF, World Economic Outlokk Database April 2024)。財政赤字の対GDP比が縮小しているのだから、財政規律が高まっていると解釈すべきではないか。