子どもの「勉強する楽しさ」を
ご褒美は失わせてしまうのか?

 しかし、ご褒美の効果については、まだまだ考えなければならない問題があります。

「ご褒美」のことを経済学では「外的インセンティブ」といいます。親や教育者は、こうした外的なインセンティブを教育の現場で用いると、短期的には子どもを勉強に向かわせることに成功したとしても、「一生懸命勉強するのが楽しい」というような、好奇心や関心によってもたらされる「内的インセンティブ」を失わせてしまうのではないか、という点についても心配されているようです。

 実際に、外的インセンティブが内的インセンティブを締め出してしまった例は存在します。

書影『「学力」の経済学』(ディスカヴァー携書)『「学力」の経済学』(ディスカヴァー携書)
中室牧子 著

 過去の研究では、献血をする人に対してお金を支払うようにした途端、献血をする人が減ってしまったり、高校生が募金活動を行う際に、「集めた金額に応じて謝金がもらえる」という仕組みを導入したところ、かえって集まった募金額が減ってしまったことを示す実験もあります。お金という外的インセンティブが持ち込まれた途端、「献血や募金活動を通じて社会に貢献したい」という内的インセンティブが失われてしまったのです。

 同じように、子どもにご褒美を与えることによって「一生懸命勉強するのが楽しい」という子どもたちの気持ちが失われてしまうようなら、本末転倒です。

 この点についても、フライヤー教授は検証を行っています。実験の後に行ったアンケート調査の中で、心理学の手法を用いて内的インセンティブを計測したところ、ご褒美の対象となった子どもたち(=処置群)と、対象にならなかった子どもたち(=対照群)の内的インセンティブには統計的に有意な差が観察されませんでした。すなわち、ご褒美が子どもの「一生懸命勉強するのが楽しい」という気持ちを失わせてはいなかったのです。