また、八虎のモノローグ。色々な迷いを経てある境地とでもいうべき心境を手にし、キャンバスに向かってこう独白する。
「俺よりうまい人なんかいっくらでもいる でも、でもさ この世界の誰より俺は俺の絵に期待してる」
この八虎の姿勢は、“ある程度落ち着いた地位と心境を手にしつつもやはり周りを見れば心は惑い、時にくよくよし、そこそこの自己肯定感は持ちつつも自己肯定を極めることはできない湿った生き物である中年”の胸に、痛烈に響くエールとなる。
自分に自信が持てなかったあの八虎が、絵を通して自分を肯定することを学び、さらには自分の可能性に自らがワクワクするまでに成長している――。筆者は中年として、この八虎を見て気づかされるのである。「ああ、おれももっと自分に期待していいんだ。期待することは恥ずかしくないんだ」と。
『ブルーピリオド』は全年齢の情熱に働きかけてくる作品だが、中年的視点で特筆すべきはこんな具合である。
アニメの評価に拍車をかける
実写ならではの迫力
アニメ版は2021年にすでに公開されていて、このときアニメ化に伴う批判は例によってあった。人気原作の常である。ネガティブな意見としては「話が端折られすぎではないか」というものが多かったようである。もちろん、声優によって新たに命を吹き込まれたキャラが動くアニメならではのみずみずしさも同時に評価された。
映画版はアニメをさらに端折ったような内容である。具体的には、美大や美術の専門知識のあれこれ、バトル漫画では修行パートに当たる「美術部の夏休みの課題」などが映画では省略されている。どれも作品に説得力と深みを持たせるエピソードではあるが、なくても違和感なく成立していた。映画がおおむね「八虎の挑戦」にフォーカスしているからであろう。