これからの世界を生き抜く「新しい当たり前」

 私が何を一番伝えたいかというと、今の時代に生きる、世界人としての働き方や生き方。「これからの世界」を生き抜くためのものさしである「新しい当たり前」です。これは何もグローバルにビジネスを行う人に限った話ではありません。自分では世界に出ていこうとしない人でも、世界とつながった今、これまでのように日本国内にとどまって働いていくことはできないのです。

「これからの世界」というのは、単にグローバルな未来ということではありません。転換期の今、ビジネスにおいてもゲームのルールが次々と変わり、新しいイノベーションが求められていますが、誰もがチェンジメーカーにならなければならないような、変化の多い世界ということも意味しています。これからの世界をサバイブしていくためには、変化に対応し、自ら変化をつくり出す必要があるのです。

 日本人は今、本当に危ない状況にあると思います。世界では、価値観が大きく揺れ動く変革のうねりがあちこちで起こっていますが、日本企業の多くは新たな波に乗り遅れています。かつて世界をリードした日本の家電業界が外国勢に押され、苦境に立たされているのがいい例でしょう。

 それは世界視野で戦おうとせず、従来のやり方や日本的な価値観を押し通そうとしていることが要因の一つです。加えて、そうした世界ステージで苦戦し続けたことから自信を失い、日本人が本来持つ素晴らしい力を十分に発揮できていないこともあげられます。

 例えば、日本製品の品質の高さは世界一です。これほど高い水準を安定的に供給できる国はそうありません。日本にいると、それが当たり前だと思ってしまいますが、世界の目線で見ていくと、自分たちの優れた力がより認識できると思います。

 私はIBM、オラクル、アップルといったグローバル企業で働いてきました。同時に、巨大企業の盛衰をリアルに体験し、その渦中に身を置いてきました。そこで目の当たりにしたのは、ピンチから抜け出すのに奇策や裏ワザはなく、原理原則を守るしかないということでした。

 アップルのスティーブやオラクルのラリーは、一般的にはカリスマと言われていますが、私が彼らのそばにいて感じたのは、決してトリッキーなことなどは何ひとつしていない、ただ基本に忠実だったということです。世界では都合のいい近道など存在しないのです。

 しかし、その原理原則は、日本人が考える「当たり前」とは少し違っています。ガラパゴス化していく日本の常識は、変化の多いこれからの世界では徐々に通用しなくなっていくでしょう。まずは世界標準の「当たり前」を理解し、そこから日本人の持てる可能性を引き出して、変革の荒波が押し寄せるこれからの世界を生き抜く必要があるのです。