しかし、わずか2週間ほどでそれは見事に裏切られる。21年9月29日の総裁戦を勝利して内閣総理大臣に就任した岸田氏は10月10日にフジテレビの報道番組に出演して、しれっとこうおっしゃったのである。

「当面は金融所得課税に触ることは考えていない」

 まさしく、息を吐くようになんとやらという典型的な話だが、マスコミ各社はこれについては「トーンダウン」「軌道修正」と厳しく追及することはなかった。これは新首相に気を使っているとかではなく、国政選挙のような「公約」ではないからだ。

 自民党総裁選は議員と党員しか票を投じることができないことからもわかるように、あくまで自民党という組織内部の「人気投票」に過ぎない。そんな内輪の権力闘争で語っていたことが、日本国の内閣総理大臣という公的な立場に就いてからガラリと変わってしまうのは致し方がない、という考え方なのだ。

 これは巨大企業にお勤めの会社員ならばよくわかるだろう。社長や会長が社内会議や社内イベントで社員に向けて語ることと、テレビに出演して一般の視聴者や株主総会で語ることがまったく同じという会社は少ないはずだ。相手によって本音と建前を使い分けるというのは、政治家に限らず日本社会のそこかしこで行われていることだ。

 さて、このような「勝てば官軍」的な自民党総裁選の政策論争の本質がわかれば、候補者の勝敗を分けるポイントが実は別にあることもご理解いただけるだろう。それは何かというと「イメージ戦略」である。実際に総裁選候補者の出馬会見のスピーチ原稿を作成した経験もある筆者から言わせていただくと、以下の3つのポイントが重要だ。

1.「何か新しいことやりますよ感」のアピール
2.前任者と真逆のキャラクター
3.選挙で浮動票が流れそうなリップサービス力

 ひとつずつ今回の候補者にからめて説明していこう。まず、1の〈「何か新しいことやりますよ感」のアピール〉は先ほど紹介した通りだ。