「品格」と「資力」は最低条件
「今お住まいの方々といい関係を結んでいただける方。やっぱり品格と、もちろん資力。それを面談の中で我々も見させていただきます。もちろんご検討されている方にも、ここが自分の人生を送るのにふさわしいところかどうかを見ていただく。お互い様ですよね。お見合いをして決めるということです」
やはりというべきか、松平氏の「面談」という言葉に思わず反応した。
「富裕層の方々はネットワークがあります。商売のお付き合いだったり、学生時代のお付き合いだったり、信頼されている方がお住まいになっていて、その方から『ここはいいよ』とご紹介いただくのが、ご検討されている方にとっても一番ですよね」
紹介者がいて、かつ十分な資力があっても面談を行うのだという。面談となれば合否のようなものが判定されるわけだが、もし不合格の理由が品格だとしたら入居希望者は傷つきやしないのだろうか。
「俺様シニア」は入居NGも
そんなことを考えながら、入居の可否を決める基準について聞くと、松平氏はさらにこう続けた。
「介護付き有料老人ホームの中でも、私どもは健常型といわれる非常に少ない種類に入ります。健常型にお入りできるのは、入居時点で身の回りのことがご自身でできるお元気な方です」
ただし、入居できるのは70歳からだという。また、既に介護サービスを受けている者は入居ができないそうだ。
さらに品格については、どういう基準なのだろうか。
松平氏の話を総合すると、共同生活であるため「俺が俺が」というように、人の話を聞かないタイプには、「お客様にとって、窮屈な暮らしになりますよ」などと伝え、遠回しに断ることもあるようである。
だが、それも当然といえば当然。他の一見さんお断りの「高級店」だって同じようなものだろう。
むしろ不合格者から怒りを買わないように諦めてもらうテクニックを試行錯誤しているのかと思うと、その気苦労は想像に難くないと思ったのだった。
(本記事は、『ルポ 超高級老人ホーム』の内容を抜粋・再編集したものです)
1973年生まれ。大学卒業後、大手電機メーカーや出版社などを経て2006年から『週刊文春』記者に。2017年の「『甘利明大臣事務所に賄賂1200万円を渡した』実名告発」などの記事で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」のスクープ賞を2度受賞。現在はフリーランスのノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌などで社会ニュースやルポルタージュなどの記事を執筆。近著に『実録ルポ 介護の裏』(文藝春秋)がある。