ノンフィクションライター・甚野博則氏による『ルポ 超高級老人ホーム』が発売直後から注目を集めている。入居金が数億を超える「終の棲家」を取材し、富裕層の聖域に踏み込んだ渾身の一冊だ。本記事では、発売前から話題となっている本書の出版を記念して、内容の一部を抜粋し再編集してお届けする。

「居住者同士の恋愛」に「サークル活動」、「大浴場」でも……。夫に先立たれた妻たちが密かに楽しむ、超高級老人ホームでの享楽生活夫に先立たれた女性たちは……(Photo: Adobe Stock)

居住者同士の「色恋沙汰」も

「僕は昔、クレディ・スイス銀行で東京支店長をしていましてね」

 しわがれた声で自らの経歴を話し始めた徳川秀夫さん(仮名)は、終戦前の昭和19年に生まれた。

 徳川さんと会ったのは、静岡県内にある老人ホームの応接室だ。テーブル越しに向かい合った徳川さんの両脇には、5名の男女が並んで座っている。この老人ホームで暮らす居住者たちだ。

 小さく「ITALY」とプリントされた上品なセーターを羽織った徳川さんを中心に、ジャケットを着用している男性や、胸元に大きな花の飾りを付けた女性たちが静かにこちらの様子を窺っている。

 皆一様に、老人ホームで暮らす高齢者といった弱々しいイメージはなく、むしろ壮健なオーラを放っていた。

大浴場では「風呂友」も

 集まった居住者たちに老人ホームでの余暇について聞いてみた。徳川さんの妻が言う。

「ここは催し物が多いので、非常住の方でも、それを楽しみにしていらっしゃる人は結構多いです。賀詞交歓会、ビール祭り、敬老の日、忘年会、新年会、かなり盛大にやります」

 それ以外にも、食事のときや大浴場では“風呂友”もできるといい、居住者同士の交流も活発のようだ。

 さらに同好会活動も盛んに行われているという。例えば、ビリヤードやカラオケ、麻雀、カード、ダンスといった具合だ。

 彼らの話を聞いていると、まるで学生サークルのような雰囲気さえ感じる。

 過去には独身の居住者同士が交際するまでに発展したケースもあったという。

「部屋を改造していろいろやってたけど旦那のほうが先に死んじゃったとか、聞いたことあるね。だけど今は知らないな。あっても密かにやるからね」(徳川さん)