「人生を一変させる劇薬」とも言われるアドラー心理学を分かりやすく解説し、ついに国内300万部を突破した『嫌われる勇気』。「目的論」「課題の分離」「トラウマの否定」「承認欲求の否定」などの教えは、多くの読者に衝撃を与え、対人関係や人生観に大きな影響を及ぼしています。
本連載では、『嫌われる勇気』の著者である岸見一郎氏と古賀史健氏が、読者の皆様から寄せられたさまざまな「人生の悩み」にアドラー心理学流に回答していきます。
今回は、恋愛に自信が持てないと悩む若者からのご相談。「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と喝破するアドラー心理学を踏まえ、岸見氏と古賀氏が熱く優しく回答します。

恋愛に自信が持てない人へのアドバイスPhoto: Adobe Stock

恋愛に必要な「勇気」とは?

【質問】お付き合いしている人との関係に自信を持つにはどうしたらよいでしょうか。私は自信がなくて相手を疑ってしまうことがあります。裏切られるんじゃないかとか、相手は他の誰かとのほうが仲が良いんじゃないかとか。そんな気持ちをどうすれば克服できるでしょうか。(20代・男性)

古賀史健:糸井重里さんから、恋愛についてこんな話を伺ったことがあります。恋愛というのは全部片思いなんだと。両思いというのも、お互いがお互いを片思いし合っている状態のことを言うのであって、その片思いの切なさとか苦しさはとても大切なものだから大事に持っておこうよ、と。

 つまり、両思いか片思いかなどはそれほど大事ではなく、自分が誰かを好きになれている、そこで切ない思いをしたり苦しい思いをしたりできている、そのこと自体が本当に素晴らしい体験なので、まずはそれを大事にしようよ、ということだと思います。

 ただ、なかなかそうは考えられず、相手を自分の所有物のようにとらえて、この人は私だけのものだと考えがちなのが恋愛の難しさかもしれません。それゆえ他の人と愛情を競い合い、自分のほうが仲が良いとか好かれているという自己中心的な意識が出てくるのだと思います。

 ですが、『嫌われる勇気』の完結編『幸せになる勇気』で書いたように、人生の主語を「わたし」や「あなた」から「わたしたち」に変えてみてはいかがでしょう。つまりアドラーが言う「共同体感覚」を持つということです。誰かと何かを競い合うのではなく、自己中心的にもならない。そのうえで、恋愛における片思いの大切さ、両側から片思いをし合うことの素晴らしさを実感できるとよいのかなと思います。

岸見一郎:人は自分に価値があると思えるときにだけ勇気を持てる、とアドラーは言っています。ですが、自信がない人は自分に価値があると思えません。自分なんて誰からも愛されるはずはない、と。若い頃を振り返ると、私にもその感じ方はよくわかります。

 自分に価値がないと思うと勇気が持てません。この場合の勇気は、対人関係のなかに入っていく勇気です。対人関係においては、必ず何らかの摩擦が起きます。人から嫌われたり、裏切られたり、憎まれたり、傷ついたりするような経験を避けることはできません。

 あなたに好きな人がいるとします。もちろん相手からどう思われようと、あなたは相手を愛すればいい。ですが、次の一歩を踏み出そうと思えば、やはり気持ちを打ち明けるしかないでしょう。それは自分の課題です。どう受け止められるかは、もちろん相手の課題です。

 そこで、思い切って告白したとします。しかし残念ながら色好い返事がもらえなかった。そんな経験を一度でもすると、傷ついたあなたは、もう嫌だ、二度と告白などしないと決心するかもしれません。

 ですが、その決心の理由は「自信がない」「自分に価値がない」からではありません。対人関係で傷つくのを恐れるあなたが、対人関係から逃れるという目的をかなえるために、「自分に価値がない」「自信がない」ことを理由にするのです。これがアドラー心理学における目的論の考え方です。

 自分には価値がないと思っている人を、他者が好きになってくれるだろうかと自問してください。そして、自信がないというのは自らつくり出した気持ちであり、感情なのだと考えてほしいのです。

 また、質問の後半で「相手は他の誰かとのほうが仲が良いんじゃないか」と気にされています。これは「課題の分離」で考えてください。まずは「自分と好きな人」の対人関係があります。次に「他の誰かと自分の好きな人」の対人関係があります。自分が何かできるのは、自分と好きな人の関係だけです。

 ですから他の誰かと競う必要はないし、そもそも競うことはできません。それは自分の課題ではないからです。自分にできるのは、好きな人との関係を良くする努力のみです。その上で相手があなたを選ぶかどうかは相手の課題なのです。

 恋愛には色々と難しいことがあります。けれど、シンプルに自分がその人を愛していることだけにスポットを当てて考えれば、少し問題の突破口が見つかるのではないでしょうか。