ノンフィクションライター・甚野博則氏による『ルポ 超高級老人ホーム』が発売直後から注目を集めている。入居金が数億を超える「終の棲家」を取材し、富裕層の聖域に踏み込んだ渾身の一冊だ。本記事では、発売前から話題となっている本書の出版を記念して、内容の一部を抜粋し再編集してお届けする。なお、本書においては施設名を実名で記載している。
体よく「お断り」されるセレブ
「特に最近、審査のときによく確認することになっているのがお人柄や生活歴、ご要望です」
そう話すのは、入居一時金が最大で1億円を超える超高級老人ホームのお客様相談室でマネジャーをつとめる野間史郎氏(仮名)だ。
超高級老人ホームの老舗であるサクラビア成城をはじめ、これらの施設はカネさえ払えば誰でも入居できるわけではない。
入居者の生活を充実したものにするため、入居希望者の性格や生活スタイルは慎重に審査しているという。
「その方の性格によっては、ひょっとして、ここでの生活がストレスになってしまうかも知れないという方がいらっしゃいます。
入居してから我慢してくださいとも言えません。ですので、ご自宅のほうがいいのではないかという方には、入居する前の段階で、勇気を持ってお断りすることもございます」(野間氏)
金額交渉は一発アウト
では具体的に、どんな人がここでの生活に向かないのか。また人柄を見るといってもどのようにしているのだろうか。
「はっきり言うと、(共同生活に向かないのは)自分を優先してくれという方です。よくあるのが金額交渉。そういうことには一切応じられません。入られた方全員平等です。
当然、よくご説明はしますが、入居までの間に、そういったことが1つ、2つ見えてくるんです。共同生活の中でその方だけを最優先することはできませんのでね」(野間氏)
また、スタッフを“指名”することも入居を断るきっかけの一つだという。
例えば入居前の段階で、顧客と担当者が何度か連絡を取り合っているときのこと。
電話口で「今、担当者が不在ですので私が代わりにお伺いします」と言うと、「いや、それならいいです」と、指名した担当者以外とは話さない人がいるそうだ。
実際に要望が多く、対応できない事情を話しても理解しない入居希望者もおり、スタッフを悩ませている。
「つい先日言われたのが、娘が依存してくるので、娘もここに住まわせてくれと。ここは70歳以上の方しか入居できませんとご説明してお断りしたのですが、お金を払えばいいんでしょ、と。
確かに有料のゲストルームはありますが、そこも利用できるのは1週間までという決まりですので、そういうことをご説明してはいるのですが……」(野間氏)
当然ではあるが、傲慢な金持ちは共同生活に向かないということだろう。
(本記事は、『ルポ 超高級老人ホーム』の内容を抜粋・再編集したものです)
1973年生まれ。大学卒業後、大手電機メーカーや出版社などを経て2006年から『週刊文春』記者に。2017年の「『甘利明大臣事務所に賄賂1200万円を渡した』実名告発」などの記事で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」のスクープ賞を2度受賞。現在はフリーランスのノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌などで社会ニュースやルポルタージュなどの記事を執筆。近著に『実録ルポ 介護の裏』(文藝春秋)がある。