脳の「老化速度」をグラフで見ると…?
まず、先述のシアトル縦断研究の詳細をもう少しお伝えしましょう。この研究は約5000人を対象に約50年も追跡調査を行った大規模なもので、1956年から2005年にかけて7年ごとに計8回の調査が実施されました。
その内容は、脳の認知機能を6種類のテストで、六つの視点「帰納的推論力(Inductive Reasoning)」「空間認知力(Spatial Cognition)」「認知速度(Perceptual Speed)」「計算能力(Numeric Ability)」「言語能力(Verbal Ability)」「言語記憶能力(Verbal Memory)」に分けて調査するものです。
結果をグラフで見ると、図1で一目瞭然なように、25歳から60歳にかけては、六つの能力にさほど大きな変化は見られません。「計算能力(Numeric Ability)」は低下していますが、一方で、年齢が上がるにつれて上昇している能力もあり、ほぼ横ばいの能力もあります。
それに、計算能力は低下しても、他の能力と比べて少なくとも英語学習には大きな影響を及ぼしません。なので、語学習得については「60歳前後まで加齢は影響しない、または年齢が高くなるほど能力が向上する」と言えるでしょう。
しかし、60歳以降は明らかに全ての能力でスコアは低下しています。この点についてシャイエは、21年間にわたって追跡できた120人の初期のデータを使って、加齢による認知機能の変化を調べました。データは7年ごとに集め、認知機能の成績の変化を「上がる」「変わらない」「下がる」の三つのグループに分けて分析しました。
結果、60歳から67歳の間では「変わらない」人が最も多く、「上がる」人も「下がる」人も少数でした。しかし、67歳から74歳になると、「下がる」人が「変わらない」人の半分程度となり、さらに74歳から81歳となると「下がる」人と「変わらない」人はほぼ拮抗する結果となりました。
全体の傾向としては「下がる」人の割合が年を取るごとに増えていくのですが、興味深いことに、逆に認知機能が「上がる」人も少数ながら存在することも判明しています。例えば、81歳で認知機能の成績が「上がる」という結果を出した人もいました。
総じてシャイエは、「60歳以降については個人差が大きくなる」と指摘しています。