高齢者と女性写真はイメージです Photo:PIXTA

今年4月にRKB毎日放送で成年後見人の特集が放映され、成年後見制度の「現実」が明らかとなった。それをきっかけに、制度のしくみや問題点に注目が集まっている。成年後見人による財産の着服などの不祥事も続いているが、本制度は相続時にも欠かせない制度であることをご存じだろうか。相続人の中に「認知症」をはじめとする判断能力の低下が見られる家族がいた場合で、法定相続を選択せず遺産分割協議を行う際には、成年後見制度を利用する必要がある。2023年6月には、認知症の親と相続をテーマにした映画「親のお金は誰のもの」(監督・田中光敏)が公開され、相続と成年後見制度の問題点に光をあてている。そこで本記事では、認知症の相続人がいる場合の相続手続きについて、成年後見制度の実情も交えながら詳しく解説する。(税理士・岡野相続税理士法人 代表社員 岡野雄志)

相続時に「成年後見人」が
必要となるケース

 家族が亡くなり相続が開始されると、相続人全員で遺産分割協議を行う必要がある。遺産分割協議では誰が何を、いくら相続するのか決めていくが、相続人の中に判断能力が不十分となっている方がいる場合はどうすればよいのだろうか。結論から言うと、その方自身の相続権を守るためにも「成年後見人」を立てる必要がある。

 今年5月8日に開催された「第2回認知症施策推進関係者会議」では、厚生労働省の研究班が2040年時点での日本国内における認知症患者数は約584万人に上るとの予想を発表した。高齢化社会の日本では認知症は身近な病であり、相続を迎えた時に成年後見人が必要になるケースは少なくないのだ。

「被相続人が遺した財産は少ないし、どうせ認知症の介護もするのだから無視していいだろう」と勝手に遺産分割協議を進めてしまったら、遺産分割協議そのものが無効となってしまう。判断能力が不十分な相続人に代わって署名・捺印を行うと、私文書偽造の罪に問われる可能性もある。

 成年後見人の申し立てから選任までは時間を要するため億劫に感じる方も多いかもしれない。しかし、適切に相続を進めるためにも、認知能力が不十分な相続人がいる相続では、成年後見人を立てよう。