コーヒーチェーンのスターバックスも、徹底した理念浸透と理念教育を行っている企業のひとつだ。

 私たちイマジナは休日にさまざまな飲食店に出かけて行っては、味や衛生状態やサービスの質を独自に採点しているが、スターバックスは必ずしも味だけで評価をされているわけではないと考えられる。

 コーヒー自体の味はコメダ珈琲店や星乃珈琲店など、日本のコーヒーチェーンの方が上かもしれないし、サンドウィッチやクッキーといったサイドメニューも、必ずしも抜群というわけではないだろう。やはり日本企業は、モノづくりに関しては一日の長があり、コメダ珈琲店も星乃珈琲店も味という分野において努力している。

 しかし、店員の接客態度に店舗や個人による差を感じさせず、客の満足を第一に優先させる姿勢が一貫しているという点においては、圧倒的にスターバックスの方が優れているのだ。この差を生み出しているのはひとえに、スターバックスが店員に提供している、「どうしたらお客様に本当の満足感を提供できるか」を考えさせる充実した教育コンテンツであろう。

 おそらく、スターバックスを利用していて嫌な思いをしたことがある人は、ほとんどいないのではないだろうか。店員はいつもにこやかに迎えてくれるし、気さくに話しかけてくれる。時には提供しているコーヒーについての知識も披露してくれるなど、まさに臨機応変の対応が身についているのだ。スターバックスはこの接客によって、他店との圧倒的な差別化に成功しているのである。

 そんなスターバックスの経営理念は、以下のように定められている。

「人々の心を豊かで活力あるものにするために――ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」
(スターバックスのHPより)

「人々の心を豊かで活力あるものにするために」という理念を叩きこまれているスターバックスの店員は、たとえば車椅子に乗った客が入店してきたら、カウンターから出ていってテーブルの椅子を引くといったアクションを、独自の判断で自然にできてしまう。日本のコーヒーチェーンの店員だったら、「勝手にレジを離れてはいけない」というルールが頭にあるせいで、そういった柔軟な行動をためらってしまうかもしれない。