ではなぜ、スターバックスは理念の浸透に成功しているのだろうか。

 ひとつには、圧倒的に多くの時間を研修に割いているということがある。

 スターバックスは社員だけでなくアルバイト店員に対しても、実に80時間にも及ぶ研修を施すことで知られている。正社員の場合は、推して知るべしであろう。さらに言えば、スターバックスの理念浸透の下地には、「感謝」をベースとした「気配り」と「気遣い」の文化がある。

「感謝なんて、いきなり古めかしい価値観を持ち出してきたな」と思われるかもしれないが、私は決して「社員に感謝をさせよ」と言いたいのではない。それではルールを強制するのと同じことだ。そうではなくて、一人ひとりの社員が心の底に感謝の念を持っていれば、理念がストンと腹落ちしやすいという事実を伝えたいのである。

 感謝というポジティブな感情がベースにあれば、目の前の出来事や相手からの言葉に対する姿勢が変わってくる。何かを教わるにしても、教えてもらえることがありがたい、伝える時間をわざわざとってくれているという前向きなとらえ方をすることができ、せっかくの厚意を無駄にしないよう、今後に活かそうと努める意識が生じるだろう。その結果、感謝と気配り・気遣いは相手にとってよい行動となるだけでなく、自分にとってもよりよい選択をもたらす。言ってみれば、感謝があることによって人生の可能性や視野が広がるのだ。反対に、感謝というベースがなければ、相手が気を遣って何かを教えてくれたとしても、その厚意に気づかなかったり、「別に頼んでいないのに余計なお世話だ」などとネガティブな解釈をしてしまったりする。そのようなとらえ方から、果たして現状の改善につながる前向きな行動や発想は生まれるだろうか。

 感謝の気持ちを持って気配りと気遣いをすることは、その瞬間のみならず、先々の展開まで視野に入れた上で圧倒的な差別化につながる。学生がスターバックスでバイトをしたがるのは、そこで学んだことがそのまま人生にプラスに働くからなのである。