経済成長を追い求めて走り続けてきた、戦後から今日までの80年。その結果としてモノは豊かな社会になったけれど、お金でしか価値をはかれない社会になってしまった。渋沢栄一のひ孫である渋沢寿一は、里山の暮らし方を研究する中で、多くの地方移住者と対話を重ねてきた。その中で見い出した、持続可能で幸せな社会を実現するためのヒントとは。※本稿は、渋沢寿一『森と算盤 地球と資本主義の未来地図』(大和書房)の一部を抜粋・編集したものです。
自分らしく生きるための基準点は
「何をするか」よりも「どうあるべきか」
移住したみなさんに共通するのは、自分たちの生き方を、自分たちで模索し、見つけていったということです。平たく言えば、自分の人生を自分で決めるということですが、実際に移住した先にあるのはテレビで紹介されているような「楽園」というわけではありません。濃密な人間関係や、場所によっては過酷な自然環境など、都会の暮らしでは出会うことのない煩わしさにも直面します。実際に、その煩わしさに耐えかねて、もとの都会に戻る人もいます。
しかし、「煩わしい」つながりの中で生きることは、必ずしも個人の在り方が抑圧される、ということではありません。現に彼らは、自分らしく生きることを追い求めた結果いまの場所にたどり着き、その地域で暮らし続けています。彼らは必ずしも、もともと環境意識が高かったというわけでもありません。自分の生き方や人生における大切な仕事とは何かを探す中で、新しい暮らしにたどり着いたのです。
彼らが生き方の主軸に置いているのは、Do(何をするか)ではなく、Be(どうあるべきか)ではないかと思います。