地域の人々の多くは大儲けすることを求めてはいません。それよりも、圧倒的に多くの人たちから聞いたのが「自分が人の役に立っていると思えるのが幸せな社会だ」ということでした。

 愛知県豊田市の山間部にある、愛知厚生連足助病院の1階に「贈与の広場」という場所があります。

 過疎が進むエリアで町までは遠いので、みんな何かあればこの病院にやってきます。山中で1人暮らしをしている高齢者も多く、彼らはコミュニティバスに乗って薬をもらいに訪れます。彼らの子どもたちは、自動車産業の繁栄に比例してみな街中へ出て働くようになり、より便利な都市部に自宅を構えています。1人取り残されたおじいちゃんやおばあちゃんたちは自分の家の前の小さな畑で自給用の野菜を作り、食べきれない野菜を「贈与の広場」に置いていくのです。

 贈与の広場にあるものは誰がもらってもいいので、近所のお母さんたちは喜んでやってきます。野菜を持ってきた人は、診察を済ませて1階に降りてきて、自分が持ってきた野菜がなくなっているととても喜びます。つまり、自分が持ってきたもので、誰かが喜んでくれたのだと。院長は、「薬よりもはるかにそっちの方が効くんです」とさえおっしゃっていました。