具体と抽象を意識する/させる

 まずはいちばんシンプルな方法から。「具体で考えてみましょう」「抽象で考えてみましょう」と、参加者の目線や意識を明示的に切り替える。

 たとえば先ほどの地方都市向けのサービスについてであれば、地方都市でも、政令指定都市なのか、中山間地や過疎地なのかで実態も議論すべき着眼点もまるで異なる。政令指定都市でも、札幌、仙台、浜松とでは産業構造も住民の行動特性も異なる。話がうまくまとまらない場合は、議題が抽象的すぎることが原因かもしれない。

 そこで、こう提案してみる。

「具体的に、たとえば浜松で考えてみましょうか」

 具体例を提示することで、たとえば「今すぐ入れる鰻屋さんを教えてくれるアプリ」といったリアリティのある意見が出てくるかもしれない。そこから「それでは浜松でしか使えない」「それなら抽象度を上げて、それぞれの地域の名産だけおすすめしてくれるアプリは?」など抽象度を調整していくことで、広く活用できるアイデアにつながるだろう。

 その場でいい意見が出てこなければ、後日、現場に行って具体的な話を聞いたり、有識者に話を聞きに行ったり、データを手に入れたりするのもよい。具体が見えているからこそ、必要な情報や行動も見えてくる。

ホワイトボードに「具体」「抽象」と書いて話を進める

 机上論や具体論に陥りすぎないよう、会議室のホワイトボードやオンラインミーティングで共有するスライドに「具体」「抽象」の枠を書いておくのも効果的だ。
 
出てきた意見を都度、「具体」「抽象」の枠に振り分けて書き込む。こうすれば、今話されている内容が具体に寄っているのか、抽象に寄っているのかが視覚化され、偏りを防ぎやすくなる。

 具体の話をしている人と抽象の話をしている人とでは往々にして議論が噛み合わない。
 先の例では「今さら浜松の鰻をおすすめして効果はあるのか」と反対する人に対して「アプリなら現場の手間やコストを抑えられる」と意見をしても話はまとまらないだろう。他方は「目的」の話をしていて他方は「実行策」の話をしているからだ。

 具体と抽象に意見を分けておけば、前者は「なんのためにやるか」の抽象の話で、後者は「どうやって実行するか」の具体の話であり、そもそも着眼点も論点も違うとわかる。具体の話なのか抽象の話なのかを明確にするだけで、不毛な議論や削り合いを減らすことができる。

「行き詰まった」と声を上げる

 話が行き詰まった場合は「行き詰まった」と声を上げよう。そうやって視点を切り替える必要があることを匂わせる。

 行き詰まったとは言わず「ちょっと視点を切り替えたほうがよさそうですね」などの表現でもよい。

 抽象で行き詰まったら具体に、具体で行き詰まったら抽象に。その発想を持っておくだけでも、会議の進行をうまく進められるようになる。

一歩踏みだす!

 ・「具体と抽象で考えてみましょう」と明示する
 ・ホワイトボードなどで具体と抽象を整理して話を進める
 ・「行き詰まった」と声を上げて視点を切り替える

(本稿は、書籍『組織の体質を現場から変える100の方法』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です)

沢渡あまね(さわたり・あまね)
作家/企業顧問/ワークスタイル&組織開発/『組織変革Lab』『あいしずHR』『越境学習の聖地・浜松』主宰/あまねキャリア株式会社CEO/株式会社NOKIOO顧問/プロティアン・キャリア協会アンバサダー/DX白書2023有識者委員。日産自動車、NTTデータなどを経て現職。400以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。『チームの生産性をあげる。』(ダイヤモンド社)、『職場の問題地図』(技術評論社)、『「推される部署」になろう』(インプレス)など著書多数。