「あなたの職場では、ラクすることがはばかられていませんか?」
そう語るのは、これまでに400以上の企業や自治体等で、働き方改革、組織変革の支援をしてきた沢渡あまねさん。その活動のなかで、「人が辞めていく職場」には共通する時代遅れな文化や慣習があり、それらを見直していくことで組織全体の体質を変える必要があると気づきました。
その方法をまとめたのが、書籍『組織の体質を現場から変える100の方法』です。社員、取引先、お客様、あらゆる人を遠ざける「時代遅れな文化」を変えるためにできる、抽象論ではない「具体策が満載」だと話題。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、「ラクすることが悪とされる職場」の問題点について指摘します。
「ラクをするのはズルい」と言われる組織
あなたの職場ではラクをしているだろうか。
ラクをする、イコール手抜きでは決してない。人力で行っていた確認作業をITツールで代替する、社内イベントの準備を専門の会社に委託(アウトソース)する、テレワークを活用して通勤をせずに業務を遂行する、会議の日程調整をツールを活用して行うなど。いずれも仕組みや仕掛けで無駄や労苦を軽減する行為であり、手抜きではない。
ところが、そのような行動をすると「手抜きをするな」「相手に失礼だ」「皆苦しんできたのに、あなただけラクをしてズルい」などの批判を浴びせてくる人がいる。
減らせる無駄や無理を仕組み・仕掛けでなくしていくのは生産性向上の基本中の基本だが、そんなことを言おうものなら火に油を注ぐだけ。ラクをするのは悪いことである。皆頑張っているのだから、あなただけラクをするのはズルい。そのような同調圧力によって現状維持が強要されている職場もある。
「ラクするな」と主張する人たちの心中とは
もちろん、反対派の気持ちもわかる。今までの努力を否定されるようで面白くない。自分のやり方に誇りを持っている人もいるであろう。
ITツールの使用方法など、新しいことを覚えるにも労力がかかる。慣れ親しんだやり方を手放したくないという人もいる。
また、改善されたら自分の仕事がなくなってしまうのではないか、自分の居場所がなくなってしまうのではないか。そのような不安も「ラクをするな」の一言の裏側に垣間見える。
ラクできる人がラクをすると、社会もラクになる
「ラクするのはズルい」。この古い仕事観、労働観から抜け出せないから日本の職場の生産性はいつまでたっても上がらないわけだが、生産性のみならず人のモチベーションやエンゲージメントに対しても悪さをしている(もっとも、変化を好まない人のモチベーションやエンゲージメントは保たれるのかもしれないが、組織としてそれでよいのか)。
そのような人たちが主流な職場は、改善も工夫も生まれにくくなる。業務の削減や改善を進めていかないことにはいつまでたっても生産性は上がらない。
少子高齢化の時代、より少ない人手で多くの成果を出すためにも、むしろ率先してラクを追求すべきである。
また社会性の面からも、なくせる苦労は正しくなくしていった方がいい。
今なお自然災害時などに出社した人が称賛される文化が根強い職場もあるが、それはいかがなものか。テレワークが可能な職種であれば、率先して出社をやめてテレワークに切り替える。そうして本当に移動を必要とする人に公共交通機関の座席や道路の空間をあけておくほうが社会性の観点で称賛されるべきではないか。平常時においても、通勤の時間や労苦を排除できれば育児をしながら仕事しやすい社会構造になる。
「皆頑張って通勤しているのだから、あなたも耐えなさい」は誰も幸せにしないのだ。