ナイキの驚くべき教育施設
たとえば、スポーツシューズメーカーのナイキはオレゴン州の郊外に本社オフィスを構えているが、東京ドーム45個分という広大な敷地(キャンパスと呼ぶ)の中に、本社機能や研究開発機関だけでなく、教育施設なども備えている。
社員だけでなくその子どもまでが、オリンピック選手などの超一流から世界最高水準の教育を受けられるのだ。親も自ら子どもに良い教育を受けさせようと思ったら多額の費用がかかってしまうが、会社が負担してくれるのは大変ありがたいだろう。
ナイキが社員に投資していることは、この陣容を見ただけで誰の目にも明らかであり、これが自社採用の強力な武器になっているのである。
日本企業の多くは広告宣伝に(ムダな)金をかけ、人材の採用にも(ムダな)金をかけて外部任せにしており、しかも内部留保を厚くしているため、賃金が安いだけでなく、社員の福利厚生にかける費用も世界的に見て極めて少ないのが実態である。
広告代理店や人材会社、転職エージェントといった「他社・他者」にお金を使う余裕があるなら、社員の福利厚生にそのお金を回した方が、はるかに企業イメージのアップにつながるし、しっかりとしたプレスリリースを作成してメディアに取材してもらえば、ムダな広告にお金を使わなくても自社の情報を拡散することは可能なのだ。
採用活動に関する日本企業の取り組みは、アメリカに比べて非常に遅れていると言わざるを得ないのである。
近年、M&A案件が急増しているが、その最大の理由は、中堅・中小企業の後継者不在問題にある。図5に示すように、東京商工リサーチの調査(2023年)によれば、全国・全業種約26万6000社のうち、後継者が「いない」と回答した企業は実に16万社に上る。その結果、あきらめ休廃業(黒字休廃業)が急増しているのである。
おそらく年間の売上高40億円あたりが分水嶺になると思うが、40億円以下の企業には、人材の採用や育成にかける資金もなく、企業価値を引き上げるのも、後継者を育成するのも難しいという現状がある。