北京の人権派弁護士は「強姦罪に問われなかったのは、婚姻関係が有効であるという前提に基づく。強姦を繰り返して何人もの子どもを産ませたということは、事件の重要な部分ではないか」と憤る。
判決文の全文が公表されていないため(この点についても批判が出ている)、推測となるが、裁判所は董被告と小さんとされる女性の結婚の有効性について正面から検討していないとみられる。少なくとも結婚が無効という判断は下していない。
中澤 穣 著
なぜ当局は強姦罪での立件を避けたのか。この弁護士は「人身売買によって連れてこられ、むりやり結婚させられた女性は中国の農村にかなり多い。この結婚を無効と判断すれば、結婚の無効を訴える人身売買被害者が大量に現れ、影響が大きくなりすぎるのを恐れたからではないか」と話し、習近平政権が重視する「社会の安定」を優先した結果と推測する。
実際に人身売買の被害者は中国社会に大量に存在する。この問題に詳しい識者は取材に「もっとも恐ろしいのは、何十年間も(小さんとされる)女性のような存在を誰も問題だと考えず、誰も彼女を救わなかったことだ」と話した。
近所の人たちや行政が女性の存在に気づいていなかったとは考えにくいとの指摘だ。そもそも「人身売買で買われてきた嫁」という存在を問題視する視点がなかったとみられる。