1本だけでも手すりが欲しい
さあ、いよいよ冷たい街の話をしよう。俺が言いたいのは、最も基本的な生理現象かつ人としての尊厳を左右する行為である排便・排尿の苦労が、たった1本の手すりがあるかないかで、雲泥の差を生むということだ。
パーキンソン病の場合、ゆっくり座ったり立ったりするのが、とても苦手になる。けれど手すり1本あれば、この動作がかなり楽になる。また、車椅子ユーザーにとっては多目的トイレの有無が、その場に行くかどうかを決めるほど重要な判断材料の一つだという。加えて、女性にはまた別の問題があるという(詳しくはNHKの番組ページを見てほしい)。この番組を見るまで、俺もその深刻さを理解していなかった。
障害者にはある意味、俺のような“中途半端”なタイプもたくさんいる。つまり、多目的トイレのような大がかりなトイレが必要というわけではないが、普通のトイレではつらい思いをする。
多目的トイレは、ある程度の規模の駅や商業施設ではずいぶん整備されてきた。ところが、俺のような中途半端な身体不自由者にとって“ちょうどいい”トイレがなかなか見つからない。手すりが1本付いているだけで良いのに。
そこで思い切って、自分のトイレ体験をできるだけ具体的に書いてみる。なお、もしその後に改善されていたらご容赦願いたい。
最初に取り上げるのは、青森県の奥入瀬渓流ホテル。21年の冬、長女と孫と初めて旅行したときのことだ。ここは星野グループの有名ホテルで、従業員のホスピタリティーや夜のツアーなど、いかにも星野グループらしく充実していた。多目的トイレもホテル内にあった。
ところが、部屋のトイレに手すりが付いてない。ホテル自慢の温泉も、体の不自由な人を意識した手すりがなかった。特に、内風呂から露天風呂への移動は、階段で滑らないようにおっかなびっくり上り下りした。
次に、新宿副都心の新宿NSビル。29階のスカイレストラン街で祝い事をしたときのことだ。ここのトイレは豪華で清潔だった。しかし、多目的トイレどころか手すり付きのトイレもなかった。いくら豪華なトイレでも機能不足だと、俺にとっては何とも使いにくい。ちなみに、一つ上階には多目的トイレがあったと後で知ったが、上階はカンファレンスルームであり、一般客の利用頻度からするとレストラン街をバリアフリーにしてくれよ…と思ったのだった。