ゴッド・マザーが指摘する「差し迫った危険性」
ただ、そうしたAI技術の発展には危険性も伴う。リー氏は、ノーベル物理学賞を受賞したジェフリー・ヒントン氏(トロント大学名誉教授で「AIのゴッド・ファーザー」と呼ばれる)と同様に、AIの危険性を警告している。ヒントン氏は、「AIで人類が滅亡の危機に直面するリスクが高まる」と警鐘を鳴らしている。
リー氏は、より喫緊の、実現度が高い危険性を指摘している。それは、AI利用による偽情報の氾濫、プライバシーや著作権の侵害、バイアスのかかった因果関係の推論などだ。
また、そうした問題に対応するために、政府(公共部門)は科学技術分野への支援を増やすべきと主張している。主要国が、国際的なAI政策によって連携を導くことも重要だ。AIの性能向上を実現し、労働力不足や医療などの問題を解決するには、多様な観点に配慮することが必要不可欠となる。
AIというと、ChatGPTを用いた検索などに関心が向かうことが多い。ただ、リー氏らの研究、起業などの根底には、文明の利器を人間にとってより良い形で使うために、著作権やデータ主権、安全性の確立こそ最優先である、といった信念がみられる。
今後も、空間認知などのソフトウエア研究開発に取り組むAIスタートアップは増えるだろう。AIのトレーニングに必要なデータセンターは、2030年までに年率10%で増加する一方、電力不足が深刻化すると懸念される。電力の安定供給とAI利用の両立を目指すエネルギースタートアップも増えるだろう。
新興企業の意思決定スピードは速い。AIの研究者が設立するスタートアップが画期的なAI技術を生み出し、IT大手からシェアを奪う可能性は高くなっている。過去、マイクロソフトからグーグルがシェアを奪ったように、新しい企業の登場は世界の経済、産業の構造を大きく変える。
安心・安全なAIの実用化に向け、汎用型よりも、特定の機能の実現を目指すAIスタートアップが増加し、彼らが主導して国際的なAI利用、データ保護などのルール形成が進むことになるかもしれない。その意味でも、スタートアップの重要性は増している。