一方で、経済産業省のコーポレート・ガバナンス・システム研究会によると、欧米と比較して日本では、グローバルと戦略系のスキルに加えて、ファイナンスや投資等のコーポレートファイナンス系のスキルと法規制、リスク、ガバナンス等のリスク・管理全般のスキルが取締役において不足しているとされている。

 このことは日本において、リスク・管理全般を含んだ意味でのファイナンス目線(CFO目線)を備えた企業価値向上のための議論が十分になされていない可能性を示唆している。企業価値向上が叫ばれる現在の日本において、非常に重要な論点といえる。

事業ポートフォリオの最適化には、事業目線だけでなく
ファイナンス目線を備えなければならない

 日本の上場企業の4割ほどがPBR1倍割れになっているという「異常事態」にあるが、これを打破するには何が必要か。

 鍵になるのは、市場の要請に応じた果敢な事業ポートフォリオの入れ替えだ。だが、ただ事業ポートフォリオを入れ替えても、企業価値を高めることにつながるとは限らない。事業ポートフォリオの最適化には、事業目線(バランスシートの左側)だけでなく、ファイナンス目線(バランスシートの右側)を備えなければならない。バランスシートの両側、つまり全社・事業戦略と財務戦略の両輪が密接に連動していることが重要なのである。

「事業ポートフォリオ」というと、バランスシートの左側、すなわち事業面(資金使途)に目がいきがちになったり、ROICを使ってアセットアロケーションを行うというようなことを思い浮かべたりするかもしれない。だが、実際にはもう少し広い話になる。現実の世界では、資金調達方法や資本コストの制約を踏まえなければならず、財務戦略と併せてダイナミックに検討する必要があるからだ。

 そこで、本書では事業ポートフォリオをファイナンス目線も併せ持ったうえで、(1)どのように資金を集め、(2)集めたリソース(資本、時間、人など)をどのような事業・取引にどれだけ割り当て、(3)付随するリスクをどのようにマネージし、(4)目指す絵姿やリスクおよび資本コストとの兼ね合いのなかでどれだけ稼いでいくか、という複合的・統合的な検討課題と定義する。

 すなわち、事業面だけではなく、ファイナンスやリスクマネジメントなどが統合的に関わるものとして事業ポートフォリオを議論する。

 この(1)~(4)を実現するアプローチを図表3に示す。

 図表3に記載されている各要素は、従来から各部門で個別に検討されてきた内容である。会社ごとに組織体制は異なるが、たとえば事業面は経営企画部と各事業部、最適資本構成や配当・負債削減は財務部、投資管理はリスク管理部というように、それぞれ異なる部署またはチームで独立したトピックとして検討されてきた。だが、各部署がそれぞれ検討していたのでは部分最適にはなっても、全社最適とはいえない。全社最適を達成するには、これらを統合的に経営戦略として整理する必要がある。

 企業が置かれている環境も、目指す絵姿もそれぞれ異なるが、一般的に全社としての最適化は(1)~(4)の優先順位と検討ステップ、タイムラインを設定したうえで包括的に進めるべきである。

(※本稿は、PwC Japanグループ著『レジリエンス時代の最適ポートフォリオ戦略』から一部を抜粋し、再編集したものです)