成功する起業家に本当に必要とされる資質とは、なんだろうか。「起業家精神」をアメリカのバブソン大学で教えている山川恭弘氏が語るには、自分の身近な半径5メートルの困り事をただ傍観するのではなく、解決する側に立って行動する力なのだという。※本稿は、山川恭弘『バブソン大学で教えている 世界一のアントレプレナーシップ』(講談社)の一部を抜粋・編集したものです。
「もう出かけられない」
車いす生活者の声が動機に
まず何をやるか、目的が定まっていなければ、何も判断できません。どっちに行ったらいいのかわからないどころか、「何を基準に決めればいいのか」がわからないのですから、迷子になるだけです。
ビジョンがなければ、モチベーションも持てず、何をすればいいのかもわからない。
夢があるなら、小さな一歩でもいいから、まずそこに向かって踏み出すことが重要です。
そんな夢、ビジョンなんて、思い浮かばないという人もいるかもしれません。しかし、自分ごととして考えてみれば、そんなことはないはずです。
よく新聞に掲載されている健康食品の広告では「実母が体調不良で悩んでいるのを見て、なんとかしてあげたいと思った」と商品開発の経緯をうたっています。ある電動車いすの開発者は、年を取って、車いすを動かす手の力が衰えた方の「もう出かけられない」という声が耳から離れなかったそうです。
グーグルのラリー・ペイジは、自分自身がネット検索をしているとき、欲しい情報になかなか行き当たらない、まったく関係ないページが検索上位に表示されていることを嘆き、「自分以外にも同じ不満を持っている人はたくさんいるんじゃないか」と考えました。
世の中には、いまもたくさんの「不平」「不満」「不便」「不自由」があります。その中には、ふだんは気づかず、見過ごしているものもたくさんあるはずです。
「子ども食堂」のきっかけは
寂しさ以上の問題をはらむ「孤食」
たとえば、この数年で大きく話題になった「子ども食堂」です。地域に根ざして、子どもたちに食事を提供するサービスですが、この提唱者は、「孤食」という問題に気がつきました。核家族、鍵っ子という現象は昭和の時代から話題に上っていました。両親と子どもの3人家族、両親は共働き。いまでは当たり前の光景です。
その対策として、放課後教室という、放課後に子どもたちを預かるサービスもあります。しかし「食」の問題は手つかずだった。家に帰ってレンジでチン。それを一人で食べる。「孤食」です。ここには、寂しい、かわいそうだという以上の問題が内包されています。