要するに「バイトで調理できるという前提条件で、フレンチらしい味わいの温かい前菜を供する」という問題に対する開発チームの解が、ファミレスでは通常は味わえないこの高級感あるスープだったということです。

たった1粒のホタテに見え隠れする
涙ぐましい企業努力

 2皿目の冷前菜は、ビジネスモデル的にはセントラルキッチンで調理したものをそのままお皿に載せることで成立するものではあります。1皿目のスープが温かいため、2皿目が冷たくても客は気にしません。しかしここで開発チームは大きなチャレンジをしています。

 今回のメニュー全般で、フレンチらしい高級食材がふたつ使われています。ひとつがメインのソースに使われる黒トリュフですが、もうひとつがこの冷前菜に使われている帆立のバターソテーです。

ガスト「1990円フレンチ」で下剋上?勝ち組サイゼやロイホもマネできない巧妙戦略3種の前菜盛り合わせ 右から時計回りに「サーモンマリネのグジェール」「帆立のバターソテー」「アンディーブの柚子ビネグレット和え」 Photo:Takahiro Suzuki

 3種の前菜のうち、サーモンマリネのグジェールは、スモークサーモンを一口サイズのシューに挟んだもので、厨房で簡単に盛り付けできます。アンディーブの柚子ビネグレット和えも同様です。しかし、帆立だけは調理が必要です。

 この中身はレアだけれども表面がカリカリにソテーされている帆立はどうやら調理したものを半冷凍した材料を、仕上げで厨房でバターソテーする工程を加えたもののようです。

 推測ですが、おそらく進藤シェフは本当は帆立のソテーは温前菜として提供したかったのではないでしょうか。せっかくの高級食材ですから、ソテーしたての温かい状態で提供したほうがゲストは美味しく感じるはずです。

 しかしそこでおそらく立ちはだかるのがファミレスのビジネスモデルです。

 高級フレンチ店なら顧客の食事のペースにあわせて帆立を調理すればよいのですが、ファミレスの場合、席数自体が大箱で多いうえに、それぞれの家族やグループが注文する料理もバラバラです。

 ですからオペレーションを考慮し「帆立のソテーも作り置きしたうえで冷前菜として提供する」という妥協点に落ち着いたのではないでしょうか。