「見通し期間の後半(2015年度)にかけて、『物価安定の目標』である2%程度に達する可能性が高い」

 市場の注目が集まる中、日本銀行が経済・物価の見通しを示す「展望レポート」が4月26日に公表された。そこでは案の定、そんな強気の説明がなされている。日銀が言うところの“街エコ(民間エコノミスト)”の物価見通しに比べれば、かなり楽観的だ。

 そもそも今回の展望レポートに注目が集まっていた背景には、その性格が、これまでとはいささか変わってしまったことがある。

 本来、毎年4月と10月に発表する展望レポートは、経済・物価の「見通し」を示すものだ(1月と7月にその中間評価を日銀自身が行う)。ところが今回ばかりは、前回の4月4日の金融政策決定会合で「戦力の逐次投入はせず、現時点で必要な政策をすべて講じた」と黒田東彦総裁が述べた通り、次元の異なる金融緩和策に踏み出していた。

 換言すれば、2%から逆算して必要な金額をすべて投じていたのだ。それだけに、こと物価の数字に関しては「見通し」というより、いわば「コミットメント」(約束)に近いものとなるのではないか――しかし本当にそういった数値を出してくるのかどうか、市場は好奇の目で見ていたわけだ。

 ところが、である。蓋を開けてみると多くの日銀ウォッチャーは、「あれっ、意外と弱気な数字だな」と口を揃えていた。「15年度にかけて2%に達する可能性が高い」と説明している割には、実際に示した物価見通しの数字は14年度(平均)で1.4%、15年度(同)でも1.9%である。前回の1月中間評価時に比べれば大きく上方修正されてはいるが、それでも2%には達していない。

 さらに詳細を眺めていくと、これまた違った様子が浮かび上がってくる。


 実はこの「2015年度1.9%」という数字は、政策委員会メンバー(総裁、2人の副総裁、6人の審議委員)9人の「中央値」を示したもの。つまり、各委員が示した物価見通しのうち、上から5番目の数値を意味しているに過ぎない(右表参照)。逆に言えば、9人のうち過半数の5人は「15年度でも2%には達しない」と思っているということである。佐藤健裕委員、木内登英委員に至っては「15年度に2%程度に達する可能性が高い」という記述に反対している。