石田:もの足りなさを感じる若手時代、先輩に話を聞くと、40代が一番面白かったと話す人が多いんですよね。でも文珍師匠は「今がいっちゃんおもろい」って言えるって……すっげえ話やな、と圧倒されたんですよ。でも文珍師匠はこう付け加えたんです。

「まあこれ、一生懸命生きてたらやけどね」

40代でゆるめてしまうと
「40代が一番よかった」人生になってしまう

――なるほど、40代でゆるめてしまうと、40代が一番面白かった、一番よかった人生になってしまう、と。

石田:そう。いま生きてて何が面白いですか、楽しいですか、と聞いたら、「ええネタ思いついた時や」って。ブレずに生きてきはったんやろなあ、と感銘を受けました。文珍師匠のNGK(なんばグランド花月)でのウケ方なんて、いまでもすごいですよ。テレビに出ることにした時や、劇場に身を置こうと決めた時も、周りから色々やいやい言われたはずなんです。周りから見たらブレてるかもしれない、でも、文珍師匠の芯はブレていなかったんですよね。

書影『答え合わせ』(マガジンハウス新書)『答え合わせ』(マガジンハウス新書)
石田 明(著)

――身の引き締まるエピソードですね……。

石田:矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、芯をブラさないためには、人の意見を否定しないようにしなきゃいけない。

 自分を通そうと思うと、人を否定しがちですよね。でもそれって、自分を守るために周りに杭を打ってる、予防線を張ってるだけなんです。人の意見を受け入れ、自分の身にいったん通した上で、自分のやっていきたいことを貫かなあかんのかな、そう思いましたね。

――いつまでも自分を一番面白がっていたい芸人さんが、やっぱり人も笑わせ続けることができる。枯れない芸人の生き様ですね。

(第2回に続く)