昨今、かなりのスピードで進化しているAI機能。しかしAIがダチョウ倶楽部・上島竜兵のお約束ギャグ「絶対押すなよ!」の真意を完全に理解するのは難しいだろう。なぜならAIはその言葉の文字通りの「意味」ではなく、そこに隠れた発言者の「意図」を理解しなければならないからだ。本稿は、川添愛『言語学バーリ・トゥード Round1 AIは「絶対に押すなよ」を理解できるか』(東京大学出版会)の一部を抜粋・編集したものです。
意味と意図の違いが分かる
上島竜兵の「絶対に押すなよ!」
本日ご紹介するのは、2017年12月に出版した『自動人形の城』という本である。この本は、今流行りの人工知能とか、言葉とか、まぁそういうものについて扱っている。この本のテーマは「意図」である。
意図というのは、ざっくり言えば、「人が考えている内容」だ。コミュニケーションにおいては、私たちが他人に伝えたいと思う内容がこの「意図」だと言っていいだろう。
日常レベルでは「意味」も「意図」もだいたい同じように使われるが、ここでは各単語の辞書的な意味や、文そのものが表す内容を「意味」と呼び、それらの単語や文に載せて話し手が聞き手に伝えたいことを「意図」と呼ぶことにしたい。
ここまで説明しても、「え?どこが違うの?」と思う方もいらっしゃるだろう。よってここで、意味と意図の違いを説明する上で一番分かりやすい例を挙げよう。
ダチョウ倶楽部・上島竜兵氏の「絶対に押すなよ!」である。
「熱湯コマーシャル」でおなじみのこの台詞は、ここで言う「意味」と「意図」が正反対になっている例だ。
この台詞の文字どおりの「意味」は「(自分を)押すな」であるが、熱湯風呂のふちでこれを口にする上島氏の「意図」が「押せ」であることはあまりにも有名である。(ちなみにこの例は、岡ノ谷一夫先生が、拙著『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』の書評(『週刊現代』2017年8月12日号掲載)の中で挙げてくださった例である。それ以来、意味と意図の違いを説明するときには使わせていただいている。)
人間は言葉の中に
「勝手な意図」を込める
このような意味と意図のずれは日常的に見られ、しばしば私たちを悩ませる。中には、こんな例もある。かなりうろ覚えなのだが、以前ツイッターか何かで、ある女性が義母から受け取ったLINEだかメールだかの話を投稿していた。