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佐藤一郎のパースペクティブ

DRAMの終焉――消えないメモリがもたらす大変化

佐藤一郎 [国立情報学研究所・教授]
【第3回】 2013年5月9日
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 例えば電源をオフにすると、目前のディスプレーも消えてしまっうのでは使いにくいでしょう。このためディスプレーを含む入出力装置とコンピュータの稼働や停止の状態を独立に制御する仕掛けが望まれます。逆に言うとノーマリーオフコンピューティングは入出力装置そのものに変化をもたらすでしょう。ディスプレーの場合、電子ペーパー/電子インクのように通常時は電力供給が不要または超低消費電力な入出力装置が求められるかもしれません。

 ノーマリーオフコンピュータの実現にはソフトウェアの対応も不可欠ですが、ソフトウェアはノーマリーオフを考慮していません。その一例を紹介しましょう。いまのOS、例えばWindowsやLinuxではマルチタスクスケジューリングと呼ばれる機能を提供しています。これは例えば一台のプロセッサで複数のプログラムが同時に実行されているように見せかける技術です。

 複数のプログラムを一つひとつ、例えば数十ミリ秒程度の時間だけ、少しずつ実行していくことで、同時に複数の処理が動いているように見せかけています。現代のOSにおいては必須の機能の一つになっており、例えばサーバが複数処理を受け付けるときも、マルチタスクスケジューリングを使って、同時に処理できる数を増やしています。

 しかし、こうしたマルチタスクスケジューリングが有効なのは、コンピュータがノーマリーオンだからです。ノーマリーオフになったら電源のオン/オフの切り替えによって、複数プログラムの実行はより断続的なものになってしまうかもしれません。あるいは、それぞれのタスクに割り当てられる実行間隔よりも、電源のオン/オフの切り替えの方が早い可能性もあり、そうなると電源オンの度にタスクを切り替える仕組みにした方がいいかもしれません。いずれにしてもノーマリーオフに対応したスケジューリングという新たな技術課題の克服が望まれます。

 なお、マルチタスクスケジューリングに限らず、ノーマリーオフを想定したOSやアプリケーション技術がなくてもコンピュータは動くでしょう。しかし、その場合、単に電源のオン/オフの切り替えが早いコンピュータができるだけです。OSを含むソフトウェアの対応がなければノーマリーオフコンピュータもその特性を活かしきれませんし、使い勝手は悪くなるでしょう。

ウィルスに感染しないコンピュータが作れる?

 いまのコンピュータは、ワープロソフトや表計算ソフトなどのプログラムコードは補助記憶装置に格納されています。OSはアプリケーションのプログラムコードを補助記憶装置から主記憶に読み込み(これを専門用語でロードといいます)、アプリケーションを実行します。しかし、主記憶がDRAMの場合、電源オフになればアプリケーションは消えてしまいます。このため、電源オンとなり、再びアプリケーションを実行する場合にOSはまたアプリケーションのプログラムコードをロードします。

 さて主記憶が不揮発性メモリならばどうなるでしょうか。コンピュータの工場出荷時、何らかの方法でOSやアプリケーションを主記憶にロードしておけば、電源を切っても主記憶からは消えません。こうなると、極論すればOSからプログラムコードをロードする機能自体をなくしてもいいはずです。

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佐藤一郎
[国立情報学研究所・教授]

国立情報学研究所アーキテクチャ科学系教授。1991年慶応義塾大学理工学部電気工学科卒業。1996年同大学大学院理工学研究科計算機科学専攻後期博士課程修了。博士(工学)。1996年お茶の水女子大学理学部情報学科助手、1998年同大助教授、2001年国立情報学研究所助教授、を経て、2006年から現職。また、総合研究大学院大学複合科学研究科情報学専攻教授を兼任。
専門は分散システム、プログラミング言語、ネットワーク。

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分散システムの研究を核としつつ、ユビキタス、ID、クラウド、ビッグデータといった進行形のテーマに対しても、国内外で精力的に発言を行っている気鋭のコンピュータ・サイエンス研究者が、社会、経済、テクノロジーの気になる動向について、日々の思索を綴る。

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