「いつも気を使い過ぎて、心が疲れてしまう」「このままで大丈夫なのか、自信がない」と不安になったりモヤモヤしてしまうことはないでしょうか? そんな悩みを吹き飛ばし、胸が晴れる気持ちにしてくれるのが『精神科医が娘に送る心理学の手紙――思い通りにならない世の中を軽やかに渡り歩く37のメッセージ』です。悩む人たちに40年以上向き合ってきた精神科医が、自分の娘に「どうしても伝えたかったこと」を綴った本書は、韓国で20万部を超えるベストセラーとなりました。本記事では、その内容の一部を紹介します。
思いっきり折った無駄骨が、あなたの個性になる
私は「無駄骨」という言葉が好きじゃない。
結果につながらないことに時間を費やしてしまったときとか、目的地に行くのにやたら遠回りの道を選んだときなどに「無駄骨を折った」と言うアレ。
一生懸命やったのに何の得にもならなかった、という意味だ。
それにしても、この世に「無駄骨」なんて本当にあるだろうか?
ひとたび風が吹けば消えてしまう砂の城を作ったところで、それがまるで無駄なことだったと言える?
美しく造形するための砂と水のバランスや、試行錯誤の末にたどり着いた効率の良い築き方まで、砂で城を作った人だけが知りえることだってあるはずだ。これこそ経験がもたらす本物の知識だと思う。
最善を見極めるのに経験も実力も不足している若者たちにとって、こうした無駄骨がなくなったら、人生はスカスカしたものになるだろう。
ある若者などは、「進むべき道を行くだけで忙しいんです。うっかり無駄骨折って時間をロスしたくない」と言って、無駄骨を文字通り損失と受け止めていた。
こういう状況を心理学では「損失回避」という。結果が同じでも、得た価値より失った価値のほうがずっと大きく感じられることを意味する。
しかし、現時点での損得勘定だけで、無駄骨を全部マイナスとだけ受け止めていたら、未来の自分が損をするのだ。
以前どこかで読んだ一文に、「専門家とは、自分のテーマに関して犯しうる“あらゆるミス”をすでに犯した人である」とあった。
これには思わずひざを打った。現時点では損失としか思えない無駄骨も、その経験が積み重なることで成功を導く動力になり、知らなかった自分を発見するきっかけにもなるということを意味するからだ。
何よりも、まだ何者でもない若い人こそ、無駄骨は必ずしておくべき神聖な労働なのだ。
自分がやりたいことや得意なことが分からなくても、ひとまず何にでも挑戦してみないとその答えも分からない。
「上手にはできないけれど、とにかく楽しい」「意外に自分はこれが得意かも」なんていう発見が、その答えになる。
このように、経験を積み重ねておけば、いざという選択の瞬間に有利に働きもする。これぞ先行投資だ。
それにもかかわらず、「あそこで遠回りしなければ自分はもっと早く就職できていたのに」などと言って自分の行動を過小評価したり否定したりするのは、若い人たちの心のどこかに「目的地にいち早く到達できる近道があるはず」という思いがあるからだろう。
しかし、人生に、誰にでも通用する効率的な正解はない。
ただ、自分が望む目標を叶えるために、その人なりのやり方で努力し、その過程で自ずと人生のノウハウが生まれる─それだけのことなのだ。
(本記事は『精神科医が娘に送る心理学の手紙――思い通りにならない世の中を軽やかに渡り歩く37のメッセージ』の一部を抜粋・編集したものです)